
2025年11月28日、農林水産省がスペインからの豚肉輸入を一時停止しました。
「アフリカ豚熱」という聞き慣れない病気が原因ですが、「人間に感染するの?」「今ある生ハムは食べても大丈夫?」と不安に思っている方も多いのではないでしょうか。
✅ 結論から言うと、人間には感染しません。
ただし、輸入再開には数年かかる可能性があり、生ハムやベーコンの品薄・価格上昇が現実味を帯びています。
この記事では、アフリカ豚熱の基礎知識から、私たちの食卓への影響、そしてイタリアの先行事例から見た今後の見通しまで、わかりやすく解説します。
🔔 【12月4日更新】感染が9件に拡大、スペイン政府が軍を投入
12月2日、スペイン政府は感染確認数が2件から9件に増えたと発表。
軍緊急部隊を含む400人以上を現地に派遣し、封じ込めに全力を挙げています。詳しくはこちら
📋 この記事でわかること
アフリカ豚熱とは?人間への感染・食べても大丈夫かを解説
🔵 アフリカ豚熱は豚やイノシシだけがかかる病気であり、人間には感染しません。
農林水産省の公式発表でも「豚熱・アフリカ豚熱は、豚やいのししの病気であり、人に感染することはありません」と明記されています。
つまり、今スーパーや冷蔵庫にあるスペイン産の生ハムやベーコンは、問題なく食べられます。
「じゃあなぜ輸入を止めるの?」と思いますよね。
実は、輸入停止の目的は「食品の安全」ではなく「日本の養豚業を守るため」なのです。
アフリカ豚熱(ASF)は、豚やイノシシが感染すると発熱や出血性の病変を起こし、高い確率で死亡する伝染病です。
有効なワクチンや治療法がないため、一度国内に入り込むと、日本中の養豚場に壊滅的な被害を与える可能性があります。
だからこそ、感染が確認された国からの豚肉は、たとえ人間に害がなくても水際でストップするのです。
ちなみに、「アフリカ豚熱」と「豚熱」は名前が似ていますが、まったく別の病気です。
日本国内で発生している豚熱(CSF)とは異なり、アフリカ豚熱は現時点で日本国内では発生していません。
では、なぜスペインで今回の問題が起きたのでしょうか?
その前に、まずは感染拡大の最新状況をお伝えします。
【12月4日更新】感染が9件に拡大|スペイン政府が軍を投入
🚨 12月2日、スペイン政府は感染確認数が2件から9件に増加したと発表しました。
スペインでのASF感染は約30年ぶりであり、政府は軍を投入して封じ込めに全力を挙げています。
Bloombergの報道によると、新たな感染はすべてバルセロナ県内の同一地域で確認されています。
スペイン政府は感染拡大を防ぐため、半径20キロ圏内に防疫区域を設定しました。
スペイン政府の対応
事態の深刻さを受け、スペイン政府は大規模な封じ込め作戦を展開しています。
- 12月1日(日曜日):カタルーニャ警察・地方職員 約300人を派遣
- 12月2日(月曜日):軍緊急部隊UME(Unidad Militar de Emergencias)117名を追加派遣
- 獣医師・専門チーム:現地に常駐して監視活動を継続
プラナス農業・漁業・食料相は12月2日の記者会見で、「現在感染している養豚場はない」と述べつつも、約400の輸出許可証のうち約120件が取り消されたことを明らかにしました。
各国の対応の違い
興味深いのは、各国によって対応が分かれている点です。
【全面停止】日本・メキシコ
→ スペインとの「地域別協定」がないため、全土からの輸入を停止
【バルセロナ県のみ停止】中国・韓国・米国
→ スペインと「地域別協定」を締結しており、感染地域以外からは輸入継続
つまり、日本は最も厳しい措置を取っている国のひとつなのです。
これは裏を返せば、日本の養豚業を守るための水際対策が徹底されている証拠とも言えます。
感染拡大が続く中、輸入停止に至った経緯を改めて確認しておきましょう。
スペイン産豚肉輸入停止の理由と経緯
📅 2025年11月28日、スペインの野生イノシシでアフリカ豚熱の感染が確認され、同日から輸入停止措置が取られました。
農林水産省の公式発表によると、スペイン政府からの報告を受けて、日本は即座に輸入保留措置を講じています。
時系列で整理すると以下の通りです。
- 11月28日:スペインの野生イノシシでアフリカ豚熱(ASF)確認
- 11月28日:農林水産省が同国からの豚肉等の輸入を一時停止
- 11月29日:農林水産省が正式に発表
- 12月2日:感染確認数が2件から9件に拡大(続報)
実は、スペインは2018年以降、EU最大の日本向け豚肉輸出国でした。
農林水産省の統計によると、2024年のスペイン産豚肉の輸入量は約16万9,000トンで、輸入豚肉全体の約17%を占めています。
そのほとんどが冷凍肉として日本に届けられていました。
スペイン産の冷凍豚肉は、ハムやソーセージ、ベーコンなどの加工業務用として重宝されてきました。
赤身率が高く、日本の規格に対応した加工技術を持っているため、加工メーカーからの信頼も厚かったのです。
その供給源が突然ストップしたわけですから、影響は小さくありません。
具体的にどんな食品に影響が出るのか、次のセクションで詳しく見ていきましょう。
生ハム・ベーコンへの影響|輸入の7割がスペイン産
⚠️ 日本が輸入する生ハムの約7割がスペイン産です。
今回の輸入停止により、欠品や価格上昇が懸念されています。
鈴木憲和農林水産大臣は12月2日の会見で、「輸入生ハムの7割弱はスペイン産が占めている」と述べ、影響を注視していく考えを示しました。
スペイン産の生ハムといえば、世界三大生ハムのひとつ「ハモンセラーノ」や、最高級品として知られる「ハモンイベリコ」が有名です。
スーパーやコンビニで見かける手頃な生ハムの多くがハモンセラーノ。
白豚を原料に、山岳地帯で7ヶ月〜数年かけて熟成させた伝統的な製法で作られています。
一方、ハモンイベリコは黒豚(イベリコ豚)を使った希少品で、スペイン生ハム全体のわずか約1割しかありません。
ハモンセラーノの4〜5倍の価格がつくこともある高級品です。
💡 豆知識:この2つは「蹄(ひづめ)の色」で見分けられます。白い蹄がセラーノ、黒い蹄がイベリコです。
飲食店からは悲鳴の声
輸入停止を受け、飲食店からは深刻な声が上がっています。
🍽️ 東京・赤坂「バルマル・エスパーニャ赤坂見附店」
「イベリコ豚を食べに来る客が離れないか心配だ」「年内で店の在庫が切れるかもしれない」
🍽️ 東京・錦糸町「リストランテ・バル・ポルテーニョ」
「1月になくなると思います。困るというか、もうノーアイデアですね」
一方、大手イタリアンチェーン「サイゼリヤ」は、「在庫があるため、すぐに売り切れることはない」としつつも、詳細については情報を精査中としています。
覚えている方も多いかもしれませんが、サイゼリヤは2022年にイタリア産生ハムが輸入停止になった際、スペイン産の「ハモンセラーノ」に切り替えて生ハムメニューを復活させました。
今回、そのスペイン産も輸入停止となったことで、再び切り替えを迫られる可能性があります。
ベーコン・ソーセージにも影響
影響を受けるのは生ハムだけではありません。
日本農業新聞によると、スペインは日本の豚肉輸入相手国として第3位。
輸入豚肉全体の約2割を占め、ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工原料として広く使われています。
輸入業者からは「月に1万トン以上の供給を賄える国がない」との声が上がっています。
また、スペイン産豚肉は赤身率が高く、ベーコン製造に適しています。
代替候補のブラジル産は脂肪量が多く、「加工メーカーが好まない」という肉質の違いも課題です。
では、この輸入停止はいつまで続くのでしょうか?イタリアの事例から、厳しい現実が見えてきます。
輸入再開はいつ?イタリアの事例から見る見通し
📌 イタリアでは2022年1月に輸入停止となり、約2年後に加熱ハムのみ解禁。
生ハム(プロシュート)は約3年経った今も輸入できていません。
「数ヶ月で解決するだろう」と思っている方もいるかもしれませんが、実態はかなり厳しいものがあります。
イタリアの経緯を振り返ると、
- 2022年1月:ピエモンテ州の野生イノシシでASF確認、日本が輸入停止
- 2022年〜2023年:北部の養豚場にも感染拡大、35,000頭以上を殺処分
- 2024年1月:加熱処理された豚肉製品(プロシュートコット等)のみ輸出解禁
- 2025年現在:生ハム(プロシュート)は依然として輸入停止中
イタリア産の生ハムといえば、「プロシュート・ディ・パルマ」が世界的に有名です。
イタリア産停止前、日本の生ハム輸入量の約63%をイタリア産が占めていました。
それが3年経っても戻ってきていないのです。
84カ国中、解除されたのはわずか3カ国
時事通信の報道によると、さらに厳しい現実があります。
これまでにASFが発生した84カ国・地域のうち、輸入停止措置が解除されたのはベルギーなど3カ国にとどまります。
つまり、一度ASFが発生すると、輸入再開にこぎつけられる国はごくわずかなのです。
なぜこれほど長期化するのか?
理由のひとつは、ASFウイルスの強い生存力にあります。
このウイルスは、豚の死骸はもちろん、塩漬けにした塩蔵品からも約300日程度は残存するとされています。
つまり、仮に感染が収束しても、すぐに生ハムを輸出できるわけではありません。
ウイルスが完全に検出されなくなったことを確認してから、ようやく製造を再開できるのです。
さらに、生ハムには9ヶ月〜24ヶ月の熟成期間が必要です。
感染収束 → ウイルス検査クリア → 製造再開 → 熟成期間 → 輸出
この流れを考えると、スペイン産の生ハムが再び日本に届くまでには、少なくとも2〜3年、場合によってはそれ以上かかる可能性があります。
輸入業者は「輸入再開にはかなりの時間がかかる」と見込んでおり、年明けからは輸入の総量が大幅に減るとの見通しを示しています。
長期化が見込まれる中、私たちにできることは何でしょうか?
今後の対策と代替品|消費者ができること
✅ 慌てて買い占めに走る必要はありません。事態の推移を冷静に見守りながら、必要に応じて代替品を活用しましょう。
フードジャーナリストの山路力也氏も「いずれにせよ慌てずに事態の推移を見守っていきましょう」とコメントしています。
現時点で店頭にある生ハムやベーコンは、輸入停止前に日本に届いた在庫です。
すぐに消えるわけではありませんが、在庫がなくなり次第、欠品や価格上昇が起こる可能性はあります。
代替品としての選択肢
【生ハムの代替】
- アメリカ産の生ハム
- カナダ産の生ハム
- 国産の生ハム
ただし、流通業者からは「他国産生ハムを国内消費者が手の届く価格で仕入れることは難しい」との声も上がっています。
【冷凍豚肉の代替】
- カナダ産(冷蔵豚肉では日本への輸出第1位)
- ブラジル産(輸入量拡大中だが供給量に不安)
- デンマーク産
輸入豚肉の価格上昇は避けられない見通しですが、価格差が縮まれば「国産豚肉への切り替え」という選択肢も現実的になってきます。
クリスマスや年末年始に生ハムを使いたい方は、早めに購入を検討してもよいかもしれません。
ただし、買い占めは控え、必要な分だけにしましょう。
ところで、SNSでは「豚コレラ」という言葉が話題になっています。
「アフリカ豚熱」との違いを整理しておきましょう。
「豚コレラ」との違いは?名称変更の経緯を解説
🔵 「豚コレラ」は2020年に「豚熱」へ名称変更されました。今回のスペインの件は「アフリカ豚熱」です。
いずれも人間のコレラとは無関係であり、人間には感染しません。
X(旧Twitter)では「豚コレラ」というワードがトレンド入りしていますが、これは旧名称です。
名称変更の経緯
2020年2月5日、家畜伝染病予防法の改正により、「豚コレラ」は「豚熱(ぶたねつ)」に、「アフリカ豚コレラ」は「アフリカ豚熱」に名称変更されました。
変更の理由は「風評被害の防止」です。
「コレラ」という名前が、人間に感染する経口感染症のコレラを連想させるため、消費者の不安を招きかねないとの指摘がありました。
実際には、豚熱もアフリカ豚熱も人間には感染しないにもかかわらず、です。
農林水産省は日本獣医学会の提言を受け、「端的に病状を理解でき、かつ、国際的な名称の日本語訳として適切なもの」として「豚熱」を採用しました。
「豚熱」と「アフリカ豚熱」の違い
| 豚熱(CSF) | アフリカ豚熱(ASF) | |
|---|---|---|
| 旧名称 | 豚コレラ | アフリカ豚コレラ |
| 日本での発生 | あり(2018年〜) | なし(清浄国) |
| ワクチン | あり(国内で使用中) | なし |
| 人間への感染 | しない | しない |
今回スペインで発生したのは「アフリカ豚熱(ASF)」であり、日本国内で発生している「豚熱(CSF)」とは別の病気です。
しかし、どちらも人間には感染しないという点は共通しています。
SNSでは「豚コレラ」という旧名称が広まっていますが、正式名称は「アフリカ豚熱」であることを覚えておきましょう。
まとめ
今回のスペイン産豚肉輸入停止について、ポイントを整理します。
- アフリカ豚熱は人間には感染しない:今ある生ハムやベーコンは問題なく食べられる
- 輸入停止の目的は日本の養豚業を守るため:食品衛生上の問題ではない
- 【12月4日更新】感染が9件に拡大:スペイン政府は軍を投入して封じ込め中
- 輸入生ハムの約7割がスペイン産:欠品や価格上昇の可能性あり
- 輸入再開には数年かかる可能性:84カ国中、解除されたのはわずか3カ国
- 慌てず事態の推移を見守る:必要に応じて代替品や国産品の活用を検討
- 「豚コレラ」は旧名称:正式名称は「アフリカ豚熱」、人間には感染しない
今後、続報が入り次第、最新情報をお届けします。
よくある質問(FAQ)
Q. アフリカ豚熱は人間に感染しますか?
感染しません。アフリカ豚熱は豚やイノシシだけがかかる病気であり、人間への感染は世界的にも報告されていません。今あるスペイン産の生ハムやベーコンは問題なく食べられます。
Q. スペイン産豚肉の輸入停止はなぜ行われたのですか?
2025年11月28日にスペインの野生イノシシでアフリカ豚熱(ASF)が確認されたためです。日本の養豚業へのウイルス侵入を防ぐための水際対策であり、食品衛生上の問題ではありません。
Q. 感染はどのくらい拡大していますか?
12月2日時点で、感染確認数は2件から9件に増加しました。すべてバルセロナ県内の同一地域で確認されており、スペイン政府は軍を含む400人以上を派遣して封じ込めに当たっています。
Q. 生ハムやベーコンへの影響はどの程度ですか?
日本が輸入する生ハムの約7割がスペイン産であり、欠品や価格上昇が懸念されています。輸入豚肉全体でもスペインは約2割を占めており、ハム・ソーセージ・ベーコンなどの加工品にも影響が出る可能性があります。
Q. スペイン産豚肉の輸入再開はいつ頃になりますか?
数年かかる可能性があります。イタリアでは2022年1月の輸入停止から約2年後に加熱ハムのみ解禁されましたが、生ハムは約3年経った今も輸入できていません。ASF発生84カ国中、輸入解除されたのはわずか3カ国のみです。
Q. 「豚コレラ」と「アフリカ豚熱」は同じ病気ですか?
「豚コレラ」は「アフリカ豚コレラ」の旧名称です。2020年2月に風評被害防止のため「アフリカ豚熱」に名称変更されました。人間のコレラとは無関係で、人間には感染しません。なお、「豚熱(CSF)」と「アフリカ豚熱(ASF)」は別の病気です。
参考文献