「停泊中なら安全なはず」と思いがちですが、船上には常に危険が潜んでいます。作業中でもなかったのに、なぜこのような事故が起きてしまったのでしょうか。
事故の詳細から、意外と知られていない作業船の危険性、そして命を守る対策まで、わかりやすく解説します。
この記事でわかること

長崎港で作業船から男性転落死-事故の概要
結論から言うと、2025年11月23日午前9時38分頃、長崎市古河町の港に停泊していた工事用の作業船から、男性乗組員が海中に転落し死亡しました。
事故の発覚は、船長からの118番通報でした。
この通報を受けて、長崎海上保安部が捜索を開始。海中で男性を発見し、すぐに救出しましたが、その場で死亡が確認されました。
実は、海での事故や事件を通報する専用の緊急電話番号「118番」というものがあります。警察の110番、消防の119番と同じように、海上保安庁につながる重要な番号です。
海上保安庁の公式サイトによると、2000年5月から運用が開始され、海難事故だけでなく、海上での不審船の発見や密輸・密航の通報など、幅広く対応しています。
今回の事故では、この118番が迅速な対応につながりました。
しかし、助けは間に合いませんでした。
亡くなった男性は誰なのか、どんな状況だったのか。次のセクションで詳しく見ていきましょう。
被害者は50歳男性、作業中ではなく外傷なし
亡くなったのは、鹿児島県に住む50歳の男性乗組員でした。
ここで注目すべきポイントが2つあります。
まず1つ目は、作業中ではなかったということ。
普通、船での事故といえば「作業中に危険な作業をしていて転落した」と想像しますよね?でも今回は違いました。作業をしていない時間帯に転落したのです。
つまり、移動中だったか、休憩中だったか、何か別の行動をしていた可能性が高いということです。
2つ目のポイントは、目立った外傷がなかったこと。
高い場所から落ちたり、何かにぶつかったりすれば、通常は外傷が残ります。しかし、今回はそれが見られませんでした。
これは、落下の衝撃よりも、海中に落ちたことによる水死の可能性を示唆しています。
海に転落すると、たとえ泳げる人でも、着衣が水を吸って重くなり、動きが取れなくなります。さらに、突然の転落によるパニックも加わります。
船長が「行方不明」に気づいてから発見されるまでの時間も、生死を分ける重要な要素でした。
では、そもそもなぜ男性は転落してしまったのでしょうか。次は原因について見ていきます。
転落の原因は?船から滑った可能性を調査中
長崎海上保安部は、男性が船から滑って転落した可能性があるとみて、詳しい状況を調べています。
「停泊中なのに滑る?」と疑問に思うかもしれません。
波や風の影響で、船は微妙に、時には大きく揺れます。陸上のように安定した場所ではありません。特に海の状況によっては、停泊中でも足元が不安定になることがあります。
さらに、船の甲板は水に濡れていることが多く、滑りやすい状態です。
作業用の靴を履いていても、濡れた甲板の上では一瞬の油断が転落につながります。
運輸安全委員会のデータを見ると、船舶事故は様々な原因で発生していますが、人的要因も大きな割合を占めています。
今回のケースでは:
- 足を滑らせた
- バランスを崩した
- 揺れに対応できなかった
このような複数の要因が重なった可能性が考えられます。
海上保安部は現在、船の構造、当時の海の状況、男性の行動などを総合的に調査中です。詳しい原因が判明すれば、同様の事故を防ぐための重要な情報になります。
ここまでで、今回の事故の概要はわかりました。では、こういった作業船での事故は頻繁に起きているのでしょうか。次のセクションで、意外と知られていない実態を見ていきます。
作業船での転落事故は意外と多い-統計が示す実態
結論から言うと、作業船での事故は年間300件以上も発生しており、決して珍しいことではありません。
この数字を見て、驚いた人も多いのではないでしょうか。
日本小型船舶検査機構のデータによると、作業船(引船、押船を含む)の海難は、年間約300件以上発生しています。
さらに、内閣府の交通安全白書によると、日本周辺海域での船舶事故は令和4年で約1,875隻に上ります。
全体の傾向としては減少していますが、それでも年間2,000隻近くの船が事故に遭っているのが現実です。
では、作業船では具体的にどんな事故が多いのでしょうか。
港湾工事の安全対策を研究する専門サイトによると、作業船での主な災害は:
クレーンや鉄板、係留ロープなどに体の一部がはさまれる事故です。
2位:墜落・転落
今回のような、船から海中への転落や、足場からの落下です。
3位:その他の作業中の事故
国土交通省の港湾工事データを見ると、過去5年で死亡者が3名、令和2年には負傷者が30人(うち休業4日以上が16人)発生しています。
作業船で働く人々は、私たちの生活を支える港湾工事や海洋工事を行っています。橋の建設、港の整備、海底ケーブルの敷設など、目立たないけれど重要な仕事です。
しかし、その裏では年間300件以上もの事故が起きているという現実があります。
「他人事」ではなく、私たちの生活を支える人々の安全が脅かされているのです。
では、こうした事故を防ぐために、どんな対策があるのでしょうか。最後のセクションで、命を守る具体的な方法を見ていきましょう。
転落事故の危険性については、建設現場での事例も参考になります。転落時の生存率と安全対策について、こちらの記事で詳しく解説しています。
停泊中の船でも油断禁物-今後の安全対策
結論から言うと、ライフジャケットを着用すれば生存率が2倍以上になり、停泊中でも常に安全意識を持つことが最も重要です。
国土交通省の公式データと海上保安庁の統計によると:
ライフジャケット未着用時の死亡率:着用時の約5倍
つまり、ライフジャケットを着けているかどうかで、命が助かる確率が2倍も変わるということです。
逆に言えば、着けていないと死亡率が5倍にも跳ね上がります。
これほど明確な効果がある安全装備は、他にはなかなかありません。
小型船舶では、2018年2月から原則すべての乗船者にライフジャケットの着用が義務化されています。船室外の甲板上では、必ず国の安全基準に適合した「桜マーク」付きのライフジャケットを着用しなければなりません。
しかし、義務化されていても、実際に着用しているかどうかは別問題です。
「ちょっとした作業だから」
「面倒くさい」
こうした油断が、命取りになります。
今回の長崎港の事故でも、ライフジャケットを着用していたかどうかは報道されていません。もし着用していれば、結果は違ったかもしれません。
では、ライフジャケット以外にどんな対策があるのでしょうか。
作業船での事故を防ぐための対策:
新人だけでなく、ベテラン船員も定期的に安全研修を受けることが重要です。慣れによる油断が、最も危険だからです。
船の点検、作業手順の確認、危険箇所の把握を日常的に行います。
「停泊中だから安全」という思い込みを捨て、甲板上では常にライフジャケットを着用します。
甲板の滑り止め処理、適切な作業靴の使用、濡れた場所での注意喚起などです。
一人での作業を避け、必ず誰かが見守る体制を作ります。万が一転落しても、すぐに発見できます。
海上保安庁の118番も、万が一の時の重要なツールです。
2025年1月からは、スマートフォンで撮影した映像を海上保安庁に送れる「Live118」という新しいシステムも始まっています。
事故が起きた時、音声だけでは伝えにくい現場の状況を、映像で正確に伝えることができます。
どんなに完璧な通報システムがあっても、どんなに優れた救助体制があっても、失われた命は戻ってきません。
作業船で働くすべての人が、「今日も無事に帰る」という当たり前のことを実現するために、一人ひとりが安全意識を持つことが何より重要です。
まとめ
2025年11月23日に長崎港で発生した作業船転落事故について、重要なポイントをまとめます:
- 事故の概要:停泊中の作業船から50歳男性が海中転落し死亡
- 意外な状況:作業中ではなく、目立った外傷もなかった
- 推測される原因:船から滑って転落した可能性(海上保安部調査中)
- 実態:作業船の海難は年間300件以上発生している
- 最重要対策:ライフジャケット着用で生存率が2倍以上になる
- 基本姿勢:停泊中でも油断は禁物、常に安全意識を
海で働く人々は、私たちの生活を支える重要な仕事をしています。その人々の安全を守るために、社会全体で意識を高めていく必要があります。
あなたは、この事故から何を学びましたか?身近に船で働く人がいたら、ライフジャケットの大切さを伝えてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 118番とは何ですか?
A. 118番は海での事件・事故専用の緊急通報電話番号です。警察の110番、消防の119番と同じように、2000年5月から運用されており、海上保安庁につながります。海難事故、不審船の発見、密輸・密航の通報など幅広く対応しています。
Q2. なぜ停泊中の船で転落事故が起きるのですか?
A. 停泊中でも船は常に波や風で揺れており、甲板が濡れて滑りやすいためです。陸上のように安定した場所ではなく、一瞬の油断が転落につながります。特に作業をしていない移動中や休憩中は気が緩みがちで、事故のリスクが高まります。
Q3. ライフジャケットの効果はどれくらいありますか?
A. ライフジャケット着用時の生存率は未着用時の約2倍、未着用時の死亡率は着用時の約5倍です。国土交通省と海上保安庁のデータによると、ライフジャケットを着用するだけで命が助かる確率が劇的に上がります。小型船舶では2018年から着用が義務化されています。
Q4. 作業船での事故はどれくらい発生していますか?
A. 作業船の海難は年間約300件以上発生しています。日本小型船舶検査機構のデータによると、決して珍しい事故ではありません。主な事故は「はさまれ・巻き込まれ」と「墜落・転落」で、過去5年で死亡者3名、令和2年には負傷者30名が発生しています。