2025年10月11日、英国の刑務所で一人の男性が亡くなりました。
この人物は、かつて世界中で340万枚以上のアルバムを売り上げたロックバンドのボーカリストでした。
しかし、そのバンドは2013年に突然解散。音楽シーンから姿を消していました。
なぜ彼は刑務所にいたのか。何が起きたのか。そして、残されたバンドメンバーたちは今どうしているのか。
この記事では、ロストプロフェッツというバンドと、その後の物語について、事実に基づいて説明します。
📋 この記事でわかること
🎸 ロストプロフェッツとは?世界で340万枚を売り上げたウェールズのロックバンド
ロストプロフェッツ(Lostprophets)は、1997年に英国ウェールズのポンティプリッドという町で結成されたロックバンドです。
中心メンバーは、ボーカルのイアン・ワトキンスとギタリストのリー・ゲイズ。Lostprophets(Wikipedia)によると、2人は以前のバンドが解散した後、新しいバンドを作ろうと決めました。
💿 世界的な成功を収めたバンド
ロストプロフェッツは、2000年から2012年までに5枚のスタジオアルバムをリリース。
その音楽性は、激しいギターサウンドとキャッチーなメロディーを組み合わせた、当時の若者に刺さるスタイルでした。
代表曲「Last Train Home」は、米国のオルタナティブ・チャートで1位を獲得。「Rooftops」も英国チャートでトップ10入りを果たしています。
💡 世界全体でのアルバム売上は340万枚以上。これは日本の人口の約3%が買った計算になります。
🎤 英国を代表するロックバンドとして
ロストプロフェッツは、英国を代表するロックフェスティバル「Reading & Leeds Festival」に2004年、2007年、2009年、2010年と4回も出演。
実は、2007年には日本の「フジロックフェスティバル」にも参加しています。
しかも、最終日のメインステージでクロージング・アクト(トリ)を務めるという大役でした。
演奏が深夜をまたいだ際、ちょうどボーカルのイアン・ワトキンスの誕生日と重なり、メンバーやスタッフからたくさんのケーキを贈られるというハプニングも。
食べきれなかったケーキは、ステージから客席に投げて観客と一緒にお祝いしたそうです。
日本でも人気があったバンドでした。
⚠️ 突然のツアーキャンセルと解散
2012年11月、ロストプロフェッツは予定されていた日本ツアーを突然キャンセル。
理由は「家族の重病」とされていました。
しかし実際には、この時期にボーカルのイアン・ワトキンスが逮捕されていたのです。
そして2013年10月1日、他のバンドメンバーたちがFacebookで解散を発表しました。
「傷つき、怒り、吐き気を催している」
彼らはそうコメントし、「以後バンドとしての演奏も作曲も一切行わない」と宣言しました。
世界的な成功を収めたバンドが、なぜ突然消えることになったのか。
次のセクションで、その理由を説明します。
⚖️ イアン・ワトキンスはなぜ刑務所に服役していたのか
🔍 薬物捜査から発覚した犯罪
2012年9月21日、イアン・ワトキンスは英国ウェールズの自宅で逮捕されました。
きっかけは薬物関連の家宅捜索でした。警察が自宅を調べたところ、大量のコンピューター、携帯電話、記憶媒体が押収されました。
これらの機器を分析した結果、非常に重大な犯罪の証拠が見つかったのです。
📋 13件の性犯罪で有罪判決
2013年11月、イアン・ワトキンスは裁判で13件の性犯罪について有罪を認めました。
その内容は、幼い子供や赤ちゃんに対する性的暴行、児童ポルノの所持など、極めて重大なものでした。
英国ロッキング・オンの報道によると、裁判官は「前代未聞の堕落の深淵へと落ち込んだ」と述べています。
2013年12月18日、カーディフ刑事裁判所で判決が言い渡されました。
刑期は29年、さらに6年のライセンス期間(仮釈放後の監視期間)が科されました。
つまり、最低でも約20年は刑務所で過ごし、出所後も6年間は厳しい監視下に置かれるということです。
😱 バンドメンバーは全く知らなかった
ロストプロフェッツの他のメンバーたちは、この事件について「全く想像もしていなかった」と証言しています。
彼らは逮捕のニュースを、一般の人々と同じタイミングで知ったのです。
Far Out Magazineの報道によると、ギタリストのリー・ゲイズは後に「もう(ロストプロフェッツの音楽は)聴けない。汚された」とコメント。
ベーシストのスチュアート・リチャードソンは、自宅にあったプラチナ・レコードを「叩き割った」と語っています。
確かに、バンドの最後の数年間、イアン・ワトキンスと他のメンバーの関係は悪化していたそうです。
rockisnotdeadの詳細レポートによると、ライブをすっぽかしたワトキンスに対し、スチュアート・リチャードソンが殴りかかったこともあったとか。
しかし、犯罪については全く知らなかったのです。
では、服役中のイアン・ワトキンスに何が起きたのでしょうか。
🚨 2025年10月11日、刑務所内で死亡
📞 午前9時39分の通報
ウェスト・ヨークシャー警察の公式発表によると、2025年10月11日午前9時39分、HMPウェイクフィールド(ウェイクフィールド刑務所)の職員から警察に通報がありました。
内容は「受刑者への暴行」でした。
救急隊が駆けつけましたが、イアン・ワトキンス(48歳)は現場で死亡が確認されました。
🔎 殺人事件として捜査開始
警察の殺人課および主要捜査班が現場に入り、捜査が開始されました。
⚠️ 25歳と43歳の男性2名が殺人容疑で逮捕されています。
英国のThe Sun紙の報道では、刑務所関係者の話として「別の受刑者に首を刺された」「近くの刑務官が現場に急行したが、どうすることもできなかった」と伝えられています。
ただし、これはまだ捜査中の情報であり、正式な発表ではありません。
⚡ 他の受刑者からの敵意
イアン・ワトキンスが収容されていたのは、重大な性犯罪者が多く収容される刑務所でした。
一般的に、刑務所内では性犯罪者、特に子供への犯罪者は、他の受刑者から強い敵意を向けられる傾向があります。
これは世界中の刑務所で見られる現象です。
イアン・ワトキンスの場合、その犯罪内容が極めて重大だったため、刑務所内で常に標的にされるリスクを抱えていたと考えられます。
⬇️
では、彼が収容されていた刑務所とは、どんな場所だったのでしょうか。
🏛️ ウェイクフィールド刑務所とは「モンスター・マンション」と呼ばれる施設
🔒 英国で最も厳重な警備の刑務所
HMPウェイクフィールドは、英国ウェスト・ヨークシャーにある刑務所です。
HM Prison Wakefield(Wikipedia)によると、この刑務所は「Category A」という最高警備レベルに分類されています。
Category Aとは、「脱走した場合、公共の安全に最大の危険をもたらす可能性がある」と判断された受刑者を収容する施設です。
つまり、英国で最も危険とされる犯罪者たちが集められている場所なのです。
👹 「怪物の館」という異名
ウェイクフィールド刑務所には、約600人の受刑者が収容されています。
その内訳は、性犯罪者、殺人犯、終身刑受刑者が中心です。
実は、この刑務所には「Monster Mansion」(怪物の館)という異名があります。
これは、収容されている犯罪者たちの犯罪の重大性から付けられた呼び名です。
過去には、歴史上最も多くの殺人を犯したとされる医師ハロルド・シップマンもここに収容されていました。シップマンは2004年、この刑務所内で自殺しています。
📊 暴力の増加が報告されていた
HM Inspectorate of Prisonsの2025年報告書によると、ウェイクフィールド刑務所では暴力のレベルが顕著に増加していました。
この報告書が発表されたのは、イアン・ワトキンスの死亡事件のわずか数週間前でした。
報告書では「多くの受刑者、特に性犯罪で有罪判決を受けた高齢の男性が、安全でないと感じている」とも指摘されています。
つまり、事件が起きるべくして起きた環境だったとも言えるのです。
では、イアン・ワトキンスは今回が初めての襲撃だったのでしょうか。
🔪 過去にも襲撃を受けていた
⚠️ 2023年8月の襲撃事件
実は、イアン・ワトキンスが刑務所内で襲撃されたのは、今回が初めてではありませんでした。
2023年8月、彼は3人の受刑者から襲撃を受けています。
その時は「研がれたトイレブラシ」で刺されたと報道されています。
首に怪我を負い、刑務官に発見されて病院に搬送されました。
幸い、この時は命に別状はありませんでした。
💰 安全のために巨額を支払っていた
2024年に出版された書籍『Life Behind Bars In The Monster Mansion』(ジョナサン・レヴィとエマ・フレンチ著)では、興味深い事実が明かされています。
イアン・ワトキンスは、刑務所内で「安全のために数千ポンドを費やした」というのです。
これは、他の受刑者に保護費用を支払っていたことを示唆しています。
刑務所内では、このような「保護料」を支払うことで、襲撃を避けようとする受刑者がいることが知られています。
しかし、それでも完全に安全が保証されるわけではありません。
🎯 常に標的にされる立場
一般的に、刑務所内では子供への性犯罪者に対して、他の受刑者から「荒っぽい制裁」が下される可能性が非常に高いとされています。
これは、犯罪者の間にも「子供を傷つけることは許されない」という暗黙のルールがあるためです。
イアン・ワトキンスの場合、その犯罪内容が特に重大だったため、常に標的にされるリスクを抱えていました。
2023年の襲撃、そして2025年の致命的な襲撃。
彼が刑務所内で過ごした12年間は、常に危険と隣り合わせだったのです。
では、ロストプロフェッツの他のメンバーたちは、解散後どうなったのでしょうか。
🎵 残りのメンバーはNo Devotionとして活動を継続
💔 「以後バンドとして演奏も作曲も一切行わない」
2013年10月1日、ロストプロフェッツは解散を発表しました。
他のメンバーたちは、イアン・ワトキンスの犯罪に「傷つき、怒り、吐き気を催している」とコメント。
「以後バンドとしての演奏も作曲も一切行わない」と宣言しました。
確かに、彼らはロストプロフェッツとしては二度と活動していません。
しかし、音楽そのものを諦めたわけではありませんでした。
🆕 新バンド「No Devotion」の結成
2014年6月、ロストプロフェッツの元メンバー5人(リー・ゲイズ、マイク・ルイス、スチュアート・リチャードソン、ジェイミー・オリヴァー、ルーク・ジョンソン)は、新しい決断をします。
アメリカのハードコアバンド「Thursday」のボーカリスト、ジェフ・リックリーを新しいボーカルに迎え、「No Devotion」(ノー・デヴォーション)というバンドを結成したのです。
バンド名の「No Devotion」は、「もう献身しない」という意味。
過去と決別し、新しい道を歩む決意を表しています。
🚫 ロストプロフェッツの曲は二度と演奏しない
No Devotionは、ロストプロフェッツの曲を一切演奏しないことを明言しています。
「あの曲たちは汚された」と、メンバーたちは感じているからです。
ギタリストのリー・ゲイズは、「彼がバンドのボイスであり、彼の詞なんだから」と語っています。
ベーシストのスチュアート・リチャードソンは、自宅にあったロストプロフェッツのプラチナ・レコードを叩き割ったそうです。
「残りはガレージにある。もう日の目を見ることはないだろう」
彼らにとって、ロストプロフェッツの音楽は、もう聴くことも演奏することもできないものになってしまったのです。
🏆 新バンドでの成功
しかし、No Devotionとしての活動は、決して失敗に終わりませんでした。
2015年、デビューアルバム『Permanence』(永続性)をリリース。
このアルバムは、2016年に英国の権威ある音楽賞「Kerrang! Album of the Year」を受賞しています。
ロストプロフェッツとは全く異なる音楽性で、新しい評価を獲得したのです。
2022年には2ndアルバム『No Oblivion』もリリース。
彼らは、過去の悲劇を乗り越え、音楽家として新しい道を歩み続けています。
😢 「13年経っても痛みを伴う」
2025年7月、ギタリストのリー・ゲイズがX(旧Twitter)にこう投稿しました。
「バンドが最も想像を絶する状況で終わってから13年が経った。今でも考えると痛みを伴う。物事は全く違っていたかもしれない」
「あまり話さないが、僕はあのバンドに全てを注ぎ込んだ。一生続くはずだった。僕は人生で誰も傷つけたことがなかったのに、これは究極の罰のように思えた」
イアン・ワトキンスの死亡が報じられた後も、No Devotionのメンバーたちからの公式なコメントはありません。
おそらく、彼らにとって、もう語るべきことは何もないのでしょう。
彼らは、音楽を通じて前に進むことを選んだのです。
💭 まとめ:音楽と人間、そして過去との決別
この記事では、ロストプロフェッツというバンドと、そのボーカリストであるイアン・ワトキンスの物語、そして残されたメンバーたちのその後について説明しました。
📝 この記事の要点
- ロストプロフェッツは世界で340万枚を売り上げた英国ウェールズの人気ロックバンドだった
- 2012年、ボーカルのイアン・ワトキンスが重大な性犯罪で逮捕され、2013年に29年の刑を宣告された
- 2025年10月11日、イアン・ワトキンスは英国ウェイクフィールド刑務所内で他の受刑者に襲撃され死亡した
- ウェイクフィールド刑務所は「Monster Mansion」(怪物の館)と呼ばれる最高警備レベルの施設で、約600人の危険犯罪者が収容されている
- イアン・ワトキンスは2023年にも刑務所内で襲撃を受けており、保護費用を支払っていたが完全には安全を確保できなかった
- ロストプロフェッツの他のメンバーは犯罪について全く知らず、2014年に新バンド「No Devotion」を結成し音楽活動を継続している
🎼 作品と作者の分離という問題
この事件は、「作品と作者をどう切り離すべきか」という難しい問題を提起しています。
アーティストが罪を犯したとき、その作品はどう扱われるべきなのか。
ロストプロフェッツの音楽を愛していたファンたちは、今もその曲を聴けるのか。
簡単な答えはありません。
しかし確実に言えることは、音楽は多くの人々の心に残り続けるということ。
そして、残されたメンバーたちは、過去と決別しながらも、音楽への情熱を捨てずに前に進んでいるということです。
No Devotionとして、彼らは新しい音楽を生み出し続けています。
それは、音楽の力が、創造者個人を超えて存在することの証明かもしれません。
❓ あなたはどう思いますか?
アーティストが罪を犯したとき、その作品はどう扱われるべきだと思いますか?
音楽と、それを生み出した人間を、切り離すことはできるのでしょうか。
簡単には答えが出ない問いですが、この事件は、私たちに考える機会を与えてくれます。
🔗 参考文献
- West Yorkshire Police - 公式発表
- HM Prison Wakefield - Wikipedia
- ロストプロフェッツ - Wikipedia
- ロストプロフェッツのイアン・ワトキンスに懲役35年の実刑判決 - rockinon.com
- Ian Watkins killed in prison attack - NME
- No Devotion - Wikipedia
- Ian Watkins murdered in prison - Far Out Magazine
- ロストプロフェッツの元メンバー「プラチナ・ディスクを叩き壊した」 - BARKS
- HMP Wakefield 2025 Inspection Report
💡 よくある質問(FAQ)
Q1: ロストプロフェッツはどんなバンドでしたか?
1997年に英国ウェールズで結成されたロックバンドで、世界で340万枚以上のアルバムを売り上げました。代表曲「Last Train Home」は米国オルタナティブ・チャートで1位を獲得し、2007年には日本のフジロックフェスティバルにも出演しています。
Q2: なぜイアン・ワトキンスは刑務所に収容されていたのですか?
2012年9月に逮捕され、2013年12月に13件の重大な性犯罪で29年の刑(+6年のライセンス期間)を宣告されました。裁判官は「前代未聞の堕落の深淵へと落ち込んだ」と述べています。
Q3: ウェイクフィールド刑務所とはどんな施設ですか?
英国で最も厳重な警備レベル「Category A」に分類される刑務所で、約600人の危険犯罪者を収容しています。「Monster Mansion」(怪物の館)という異名があり、性犯罪者、殺人犯、終身刑受刑者が中心です。2025年の報告書では暴力の顕著な増加が指摘されていました。
Q4: 残りのメンバーは今どうしていますか?
2014年6月に新バンド「No Devotion」を結成し、音楽活動を継続しています。2015年のデビューアルバム『Permanence』は2016年にKerrang! Album of the Yearを受賞し、2022年には2ndアルバム『No Oblivion』もリリースしています。ロストプロフェッツの曲は二度と演奏しないと明言しています。
Q5: 他のメンバーは事件を知っていたのですか?
いいえ。ロストプロフェッツの他のメンバーは事件について「全く想像もしていなかった」と証言しており、逮捕のニュースを一般の人々と同じタイミングで知りました。解散発表では「傷つき、怒り、吐き気を催している」とコメントしています。
Q6: 過去にも刑務所内で襲撃があったのですか?
はい。2023年8月に3人の受刑者から「研がれたトイレブラシ」で刺される襲撃を受けています。この時は首に怪我を負いましたが命に別状はありませんでした。2024年出版の書籍では「安全のために数千ポンドを費やした」ことも明らかにされています。