⚠️ 「2150万円払ったのに更地のまま」
家賃とローンの二重払いで、生活が破綻寸前に追い込まれている人がいる。
「人を信じられなくなりました」
夢のマイホームを建てるはずだった40代公務員の男性は、そう絞り出すように語った。
2150万円の住宅ローンを組んだにもかかわらず、家は更地のまま。
残ったのは、何十年も続くローン返済と、今住んでいる家の家賃という二重の負担だけだ。
兵庫県姫路市の住宅メーカー「企広(きこう)」が2025年4月に突然破産した。
創業50年を超える老舗メーカーの倒産は、多くの依頼者の人生を狂わせた。
なぜ直前までキャンペーンを打ち、新規契約を取り続けたのか?
被害者たちが直面する現実と、同じ被害に遭わないための対策を詳しく解説する。

📋 この記事でわかること
企広(きこう)破産とは?創業50年の住宅メーカーに何が起きたのか
📌 結論:兵庫県姫路市の住宅メーカー「企広(きこう)」は、2025年4月28日に倒産。約4億円の負債を抱えて破産手続きに入った。
「企広」と書いて「きこう」と読む。
「スムスタイル(SUMU STYLE)」というブランド名で注文住宅やリフォームを手がけていた会社だ。
姫路市青山西に本社を構え、加古川にも店舗を展開。社員数は約10名の中小企業だった。
では、なぜ50年も続いた会社が突然倒産したのか。
倒産情報サイトJC-NETによると、主な原因はコロナ禍による木材・資材価格の高騰と、外注費の増加だ。
2022年4月期以降、赤字が続いて資金繰りに行き詰まったとされている。
💡 実は…
倒産の3年ほど前から兆候はあった。企広と20年近く取引していた工務店の社長によると、「3〜4年前くらいから工事代金の支払いが遅れる傾向があった」という。
最初は1〜2か月の遅れだったものが、徐々に3か月、4か月と延びていった。
老舗だから安心、とは限らない。
この破産で、人生が一変してしまった人がいる。2150万円のローンだけが残されたAさんの話を聞いてほしい。
被害者Aさんの悲痛な叫び「2150万円のローンだけが残った」
📌 結論:Aさんは契約時に250万円、着工前に1900万円、合計2150万円を支払い済み。地鎮祭まで終えたのに、家は一切建たないまま倒産の知らせが届いた。
兵庫県加古川市で妻と2人の子どもと暮らす40代の公務員、Aさん。
2024年12月、念願だったマイホームの購入を決意した。
「妻の希望に沿う形でキッチン周りは設計しました。子どもたちが使う部屋を2つ用意してもらって」
夢が膨らむ新築一戸建て。Aさんは企広と契約し、2150万円のローンを組んだ。
社長に会ったときの印象を、Aさんはこう振り返る。
「身なりもちゃんとしていましたし、本当に信用して、いい方に出会えたなという思いでした」
2025年3月には地鎮祭も行った。あとは4月からの着工を待つばかりだった。
ところが、工事は一向に始まらない。
そして4月、担当者から衝撃の連絡が届く。
「株式会社企広は4月28日に倒産致しました」
Aさんの家が建つはずだった場所は、今も更地のまま雑草が生えている。
土地はAさんの所有だが、新たに別の業者に工事を依頼する余裕はない。マイホームの夢は諦めざるを得なかった。
さらに深刻なのは、今の生活だ。
「家賃も現状支払っている状態で、よく分からない住宅ローンも支払っている状態で、生活自体が本当に成り立たなくなってしまって」
家賃とローンの二重払い。これが何十年も続く。
「1年や2年で返せるような金額ではないので。本当に何十年という単位で、よく分からないものにお金を支払い続けていく。想像を絶するつらさですよね」
Aさんは最後にこう語った。
「本当に人間のすることじゃないなと思いますね」
被害は新築だけではない。リフォーム工事の途中で放置されたBさんのケースも深刻だ。
被害は新築だけじゃない!リフォーム途中で放置されたBさんのケース
📌 結論:Bさんは実家のリフォームを1160万円で依頼したが、工事はわずか3割で中断。ローンは残り、工事を再開するために別業者に約700万円を追加で払う羽目になった。
兵庫県内に住む60代のBさん。親が住んでいた実家をリフォームして住もうと考えていた。
2024年7月、工事を依頼したのが企広だった。
「外側だけ残して、中は全部変えて、屋根も全部変えるという感じ」
なぜ企広を選んだのか。理由は「安さ」だった。
「正直、他の業者と比較したときに金額がすごく安かった。500万円から700万円くらいは違っていた」
💡 実は…
この「安さ」こそが危険信号だった。経営が苦しくなった会社は、とにかく仕事を取ろうとして価格を下げる。資金繰りのために契約を急ぎ、前払い金を集めようとするのだ。
Bさんが企広に支払ったのは1160万円。そのうち一部は80歳ごろまでのローンを組んで工面した。
工事は2024年内に終わるはずだった。ところが延期を繰り返し、2025年4月を迎えた。
「企広の営業の方から『倒産しました』という知らせが来て」
破産当時のBさんの実家の様子は悲惨だった。
木材や脚立は放置され、壁がなく向こう側が丸見え。工事は3割ほどしか進んでいなかった。
ローンは残ったまま。その上、工事の続きを別業者に依頼せざるを得ず、新たに約700万円を出費することになった。
「ホンマに生きた心地がしないというのはこういうことなんやなって」
Bさんは社長への怒りを隠さない。
「私はもう許せない、もう一生」
さらに想定外の被害もある。国からの補助金100万円が「消えた」Cさんのケースだ。
国からの補助金100万円が消えた?Cさんが直面した想定外の被害
📌 結論:Cさんは家が無事に完成したが、子育てエコホーム補助金100万円は国から企広に振り込まれたまま、Cさんには届かなかった。
相生市内に住む会社員のCさん(40代)は、企広に依頼して2024年秋にマイホームを建てた。
家は建った。だが、別の問題が発生した。
「子育てエコホーム補助金」という制度をご存知だろうか。
省エネ性能の高い住宅を建てると、国から最大100万円の補助金がもらえる制度だ。
Cさんも当然、この補助金を受け取るはずだった。
2025年3月28日、国から企広への振り込みが完了したという通知が届いた。
ところが、Cさんの手元にお金が届く前に、企広は破産してしまった。
💡 実は…
この補助金には落とし穴がある。補助金は施主(家を建てた人)に直接届くわけではない。住宅メーカーを経由して支給される仕組みなのだ。だから、メーカーが破産すると、施主の元には届かないリスクがある。
「正直悪質ですよね。それがあったらもっと子どもたちにもいろんなことをしてあげられるのかなと思ったら、悔しい思いでいっぱいですね」
100万円あれば子どもの習い事や教育費、家族旅行にも使えた。それが消えてしまった。
なぜこのような事態が起きたのか。破産直前に企広で何が起きていたのかを見ていこう。
「計画倒産では?」破産直前に何が起きていたのか
📌 結論:取引先の工務店によると、破産の半年ほど前から「安い値段で急いで仕事を取っていた」という。そして破産のわずか20日前、企広は「家づくり応援キャンペーン」を開始していた。
被害者やネット上では「計画倒産ではないか」という声が上がっている。
その根拠となる事実を整理しよう。
まず、企広と長年取引していた工務店の社長の証言だ。
「(2024年秋から)急にたくさん仕事があるなというイメージはあった。つぶれる前は結構駆け足で仕事を取っていた。たぶん結構安い値段でお客さんと交渉して仕事を取っていた」
経営が苦しいはずなのに、仕事を増やす。しかも安売りで。
これは典型的な自転車操業のパターンだ。新しい契約金で、前の支払いを回す。そしてまた新しい契約を取る。
⚠️ 衝撃の事実
実は、破産するわずか20日前の2025年4月10日、企広は「家づくり応援キャンペーン」を始めていた。
ホームページには「お客様が楽しい人生をこれから送る場所で、苦しい思いをしていただかないよう」と書かれていた。
20日後に破産する会社が、だ。
2025年8月に神戸地裁姫路支部で開かれた債権者集会。出席者によると、破産管財人からこんな説明があったという。
「去年の時点で会社は2億8700万円の債務超過だった。しかし破産する前の月まで新規契約を取っていた」
なぜ直前まで契約を取り続けたのか。社長はこう答えたとされる。
「いろいろ金策にも走っておりましたし、案件もそこそこありましたので、それを契約して運営していこうと。待っていただいている支払いもそこで払っていこうと考えておりました」
代理人弁護士は「計画倒産ではない」と否定している。
しかし被害者の不信感は消えていない。
企広の欠陥住宅問題や建設業界全体の危機については、こちらの記事でも詳しく解説している。
では、その社長とはどんな人物なのか。
企広の社長・本岡大幹氏とは?なぜ取材に応じない?
📌 結論:企広の代表取締役は本岡大幹(もとおか だいが)氏。債権者集会には出席して謝罪したが、報道各社の取材には「回答できることはない」と応じていない。
本岡大幹氏は、企広の創業者ではなく、代表を務めていた経営者だ。
企業情報によると、企広は昭和49年(1974年)5月創業。資本金は1000万円で、二級建築士や2級建築施工管理技士などの資格を持つスタッフがいた。
姫路本社と加古川店の2拠点で営業していた。
破産後、本岡社長の姿を見た人は限られている。
債権者集会には出席し、謝罪はした。しかし、資金の行方については明確な説明がなかったという。
取材班が社長の自宅を訪ねても会うことはできず、代理人弁護士を通じて取材を申し込んでも「回答できることはない」と断られた。
ネット上の掲示板には「社長は破産直前に引っ越した」「音信不通」という書き込みもある。ただし、これらは未確認情報だ。
💡 実は…
被害を拡大させた要因の一つに、社長の判断がある。掲示板の投稿によると、ある施主が契約前に「住宅完成保証制度」への加入をお願いしたところ、社長はこう言ったという。
「それはあんまり意味がないでしょう」
住宅完成保証制度とは、住宅メーカーが倒産したときに施主を守る制度だ。これに加入していれば、被害は軽減できた可能性がある。
なぜ「意味がない」と言ったのか。
住宅完成保証制度に加入するには、会社の決算内容が審査される。決算が悪いと加入できない。
つまり、企広は決算状況が悪くて加入できなかった、あるいは審査を避けていた可能性がある。
被害者が最も気になるのは「支払ったお金やローンはどうなるのか」だろう。法的な観点から解説する。
住宅メーカーが倒産したらローンはどうなる?返済義務は消えない現実
📌 結論:住宅メーカーが倒産しても、ローンの返済義務は消えない。なぜなら、ローン契約は施主と金融機関の間で結ばれたものであり、住宅メーカーとは別の契約だからだ。
「え、メーカーが倒産したのに、なんでローンを払い続けなきゃいけないの?」
そう思う人も多いだろう。しかし、これが現実だ。
💡 実は…
住宅ローンは「施主と住宅メーカー」の契約ではない。「施主と銀行」の契約だ。だから、住宅メーカーが消えても、銀行への返済義務はそのまま残る。
ベリーベスト法律事務所の解説によると、住宅ローンはあくまで「施主と銀行」の契約。住宅メーカーの倒産とは直接関係がない。
では、支払い済みのお金は戻ってくるのか。
結論から言うと、ほとんど戻ってこない可能性が高い。
破産手続きでは、残された会社の財産を債権者に分配する。しかし、その順番には優先順位がある。
📊 破産時の返済優先順位
- 税金や社会保険料
- 担保を持つ金融機関
- 下請け業者や材料納入業者
- 一般債権者(施主はここ)← 最後尾
施主は「一般債権者」として最後尾だ。
しかも、企広の破産時の残資産はわずか約500万円。数十人の被害者で分けたら、一人あたり数パーセントか、ゼロというケースも珍しくない。
破産管財人からも「債権者に返済できる見込みは極めて薄い」と説明があったという。
被害に遭ってしまった人がとるべき行動
1. すぐに住宅ローンを組んでいる金融機関に連絡
事情を説明すれば、返済条件の見直しなど相談に乗ってくれる可能性がある。
2. 弁護士への相談
法テラス(0120-079-000)では無料で相談できる。
3. 破産管財人への債権届出
木村法律事務所(079-221-8555)が担当している。
このような被害を防ぐ方法はあるのか。契約前に確認すべき「住宅完成保証制度」について解説する。
同じ被害に遭わないために知っておくべき「住宅完成保証制度」
📌 結論:住宅完成保証制度は、住宅メーカーが倒産したときに支払い済み代金の一部を補償し、工事の引継ぎ先も紹介してくれる制度だ。ただし加入は任意で、企広は加入していなかった。
「そんな制度があるなら、なぜ企広は入っていなかったの?」
そう思うだろう。実は、この制度に加入している会社は一部に限られる。
SUUMOの解説によると、住宅完成保証制度とは、国土交通省の指導のもと設立された仕組みだ。
✅ 住宅完成保証制度で受けられる保証
- 支払い済みの工事費の一部が補償される
- 工事を引き継ぐ施工会社を紹介してもらえる
- 引継ぎで発生する追加費用の一部も補償される
保証の上限は、工事請負金額の20〜30%程度。2000万円の工事なら、400〜600万円程度が限度だ。全額は戻らないが、大きな損失は防げる。
では、なぜ全ての会社が加入していないのか。
理由は「審査があるから」だ。
住宅完成保証制度に加入するには、会社の財務状況が一定の基準を満たす必要がある。経営が不安定な会社は、そもそも加入できない。
逆に言えば、「住宅完成保証制度に加入している」ということは、その会社がある程度健全な経営をしている証拠になる。
契約前に必ず確認すべき5つのポイント
1. 住宅完成保証制度に加入しているか
契約前に必ず確認する。加入していない会社は避けるのが無難だ。
2. 支払いスケジュールが適正か
通常は「契約時・中間・完成時」の3回に分けて、それぞれ3分の1ずつ支払う。着工前に総額の8〜9割を要求する会社は危険信号。
3. 他社より極端に安くないか
「安さ」には理由がある。経営難で仕事を取りたいだけかもしれない。
4. 工事代金の支払い状況
可能であれば、下請け業者への支払いが遅れていないか情報を集める。
5. 会社の設立年数だけで判断しない
企広は創業50年の老舗だったが、倒産した。歴史の長さだけでは安心できない。
住宅は人生最大の買い物だ。
「面倒くさい」「相手を信用したい」という気持ちはわかる。でも、その確認を怠ったばかりに、何十年もローンだけを払い続ける人がいる。
契約前の数時間の確認で、人生を守れるかもしれない。
まとめ
📝 この記事のポイント
- 住宅メーカー「企広(きこう)」は2025年4月28日に破産。負債約4億円
- 被害者は「家が建たないのにローンだけが残る」という二重苦に直面
- 住宅メーカーが倒産してもローン返済義務は消えない(銀行との別契約だから)
- 補助金もメーカー経由のため、倒産で受け取れないリスクがある
- 「住宅完成保証制度」への加入確認が最大の予防策
これから家を建てようとしている人、リフォームを考えている人は、必ず契約前に「住宅完成保証制度に加入しているか」を確認してほしい。
たった一つの質問で、人生が変わるかもしれない。
よくある質問(FAQ)
Q. 企広(きこう)はなぜ倒産したのですか?
コロナ禍による木材・資材価格の高騰と外注費の増加が主因です。2022年以降赤字が続き、約4億円の負債を抱えて2025年4月に破産しました。
Q. 住宅メーカーが倒産したらローンはどうなりますか?
ローンの返済義務は消えません。住宅ローンは施主と銀行の契約であり、住宅メーカーとは別契約だからです。家が建たなくても返済は続きます。
Q. 支払ったお金は戻ってきますか?
ほとんど戻らない可能性が高いです。施主は破産手続きで「一般債権者」となり、優先順位は最後尾。企広の残資産は約500万円で、返済見込みは「極めて薄い」とされています。
Q. 企広の社長は誰ですか?
代表取締役は本岡大幹(もとおか だいが)氏です。債権者集会には出席しましたが、取材には「回答できることはない」と応じていません。
Q. 同じ被害に遭わないためにはどうすればいいですか?
契約前に「住宅完成保証制度」に加入しているか確認することが最大の予防策です。また、極端に安い見積もりや、着工前に総額の大半を要求する会社は避けましょう。
参考文献