横断歩道を自転車で渡っていた8歳の男の子が、車にはねられて亡くなったのです。
しかし、この事故の本当の悲劇は、男の子をはねてしまった77歳のドライバーが「交通ルールを守っていた」という点にあります。
信号のない横断歩道で横断者を見つけて正しく停止したところ、後ろから58歳の男性が運転する車に追突されて押し出され、横断中の男の子に衝突してしまったのです。
交通ルールを守っていたのに、加害者になってしまう。
こんな理不尽な事故が、実際に起きています。
📋 この記事でわかること
🚗 伊東市で起きた痛ましい事故の全容
2025年10月5日午後2時半過ぎ、静岡県伊東市の国道135号で事故は起きました。
現場は信号のない横断歩道。77歳の男性が運転する軽自動車が、横断歩道の前で停止していました。横断歩道を渡ろうとする人がいたからです。
これは道路交通法で定められた、正しい行動でした。
しかし、その直後。
後ろから走ってきた58歳の男性が運転する軽自動車が、停止中の車に追突。追突された車は、その衝撃で前に押し出されてしまいます。
そして、横断歩道を自転車で渡っていた8歳の男の子に衝突してしまったのです。
男の子は胸を強く打ち、病院に搬送されましたが、その後死亡が確認されました。追突された77歳の男性は軽傷でした。
交通ルールを守って止まった人が、加害者になってしまう。
これほど理不尽な事故があるでしょうか。77歳のドライバーは、法律的には責任を問われなくても、自分の車で人をはねてしまったという記憶を、一生背負って生きていくことになります。
そして何より、8歳という未来ある命が失われてしまったのです。
❓ なぜこのような事故が?追突の原因を考える
では、なぜ追突した58歳のドライバーは、前の車が止まっていることに気づかなかったのでしょうか。
警察は事故の詳しい原因を調べていますが、一般的に追突事故が起きる原因は「前方不注意」です。
具体的には、以下のような可能性が考えられます。
- スマートフォンを操作していた
- カーナビを見ていた
- 考え事をしていた
- 前の車が止まるとは思っていなかった
- 横断歩道があることに気づいていなかった
特に「前の車が止まるとは思っていなかった」というケースは、多くの人が経験しているかもしれません。
💎 実は知らない人が多い「ダイヤマーク」の意味
実は、横断歩道の手前には「ダイヤマーク」という道路標示があります。白いひし形のマークで、横断歩道の約50m手前と約30m手前に描かれています。
このダイヤマークは「この先に横断歩道がある」という予告の意味があり、警視庁の公式サイトでも「ダイヤマークを見たら、横断歩行者がいる場合にはすぐに停まれるように注意してください」と呼びかけています。
しかし、ある調査では6割以上の人がこのダイヤマークの意味を知らないという結果が出ています。
ダイヤマークの存在を知らない。だから「この先に横断歩道がある」と意識せず、前の車が止まることを予測できない。そして追突してしまう。
⚠️ 岐阜県でも全く同じ事故が起きていた
実は、全く同じパターンの事故が2019年に岐阜県でも起きています。
信号のない横断歩道の手前で一時停止したミニバンに、後方の軽四貨物車が追突。追突されたミニバンが、横断歩道を渡っていた50代の女性をはねてしまい、女性は亡くなりました。
JAFの事故ファイルによると、この事故も「後続車のドライバーが横断歩道の存在に気づかず、前方車両の停止を予測できなかった」ことが原因とされています。
岐阜県警はこの事故をきっかけに「シマシマ作戦」という啓発活動を開始。当時2.2%しかなかった一時停止率を、35.5%まで改善させました。
しかし、それでも3台に2台は止まらない計算です。
そして今回、伊東市で再び同じような事故が起きてしまったのです。
⚖️ 追突された77歳ドライバーに責任はあるのか
「でも、急ブレーキをかけたから追突されたんじゃないの?」
そう思う人もいるかもしれません。追突された77歳のドライバーにも、何か落ち度があったのではないかと。
しかし、法律的にはそうではありません。
基本的に追突事故の過失割合は「追突した側10:追突された側0」
つまり、追突した側が100%悪いというのが原則です。
追突事故の過失割合に関する解説によると、なぜなら、後ろを走る車には「前の車が急に止まっても追突しないように、十分な車間距離を保つ義務」があるからです。
今回のケースでも、77歳のドライバーは横断歩道の手前で正しく停止しただけ。何も悪いことはしていません。
急ブレーキをかけたわけでもなく、横断歩道というルール上止まるべき場所で止まっただけです。
📚 大津の園児事故でも直進車は不起訴に
参考になるのが、2019年に滋賀県大津市で起きた保育園児の列に車が突っ込んだ事故です。
この事故では、右折しようとした車が直進車と衝突し、はずみで直進車が歩道にいた園児たちをはねてしまいました。園児2人が亡くなり、14人が重軽傷を負う痛ましい事故でした。
この時、園児たちをはねてしまった直進車のドライバーは不起訴(罪に問われない)となりました。なぜなら、「右折車に突然衝突され、避けようがなかった」と判断されたからです。
弁護士の解説によると、「歩行者からすれば、右折車、直進車の『連帯責任』でケガを負ったということになる。しかし、直進車は過失が極めて小さいため、刑事責任を問うのは難しい」とされています。
今回の伊東市の事故も、構造は似ています。追突された77歳のドライバーは、後ろから追突されて避けようがありませんでした。
法律的には責任を問われない可能性が高いでしょう。
しかし、法律で無罪だったとしても、自分の車で人をはねてしまったという事実は消えません。
その心の傷は、一生残り続けます。
📊 実は半数が止まらない!信号のない横断歩道の実態
では、信号のない横断歩道で、どれくらいの車が止まっているのでしょうか。
JAFが2024年に実施した全国調査によると、衝撃的な結果が出ています。
一時停止率は全国平均で53.0%
つまり、約半数の車が止まっていません
あなたが横断歩道で待っていても、2台に1台は止まってくれないということです。
しかも、地域によって大きな差があります。
- 一時停止率が最も高い:長野県で87.0%(9年連続全国1位)
- 一時停止率が最も低い:富山県で31.6%(10台中7台が止まらない)
🚦 横断歩道で止まらないとどうなる?
警察庁の公式サイトによると、道路交通法では、信号のない横断歩道に横断者や横断しようとする人がいる場合、車は横断歩道の手前で一時停止しなければならないと定められています。
違反した場合は以下のペナルティがあります。
- 反則金:9,000円(普通車の場合)
- 違反点数:2点
それでも、約半数が止まらない。
🔄 止まらない車が多いせいで、止まる車が危険に
理由の一つは「横断歩道があることに気づかない」ことです。先ほど説明したダイヤマークの意味を知らない人が多いため、前方に横断歩道があることを予測できないのです。
もう一つの理由は「止まると後ろから追突されるかもしれない」という不安です。
実際、コメント欄には「横断歩道で止まったらクラクションを鳴らされた」「追い越していった車がいた」という体験談が複数寄せられています。
つまり、止まらない車が多いせいで、止まろうとする車が危険にさらされるという悪循環が生まれているのです。
ちなみに、2016年の調査では一時停止率はわずか7.6%でした。
それが2024年には53.0%まで改善しています。確実に良くなってはいますが、まだ「半数が止まらない」という現状があります。
✅ このような事故を防ぐには:ドライバー・歩行者・自転車それぞれの対策
では、このような悲劇を防ぐために、私たちには何ができるのでしょうか。
ドライバー、歩行者、自転車、それぞれの立場でできることを考えてみましょう。
🚗 ドライバーができること
1. ダイヤマークを見たら減速する
横断歩道の手前50mと30mにあるダイヤマーク。このマークを見たら「この先に横断歩道がある」と意識して、すぐに止まれる速度まで減速しましょう。
アクセルから足を離し、ブレーキペダルの上に足を置く。これだけで反応時間が大きく変わります。
2. 前の車が止まったら「横断者がいる」と考える
前の車が止まったら、それは横断者がいる可能性が高いサインです。
決して追い越したり、クラクションを鳴らしたりしてはいけません。自分も止まれる速度に減速しましょう。
3. 十分な車間距離を保つ
前の車が急に止まっても追突しないよう、常に十分な車間距離を保ちましょう。
一般的には「3秒ルール」が推奨されています。前の車が通過した地点を、自分の車が3秒後に通過するくらいの距離です。
4. 前方不注意をなくす
運転中のスマートフォン操作は絶対にやめましょう。考え事をしていても、目は前を見続ける。当たり前のことですが、これが命を守ります。
🚶 歩行者・自転車ができること
1. 手を上げて横断の意思表示をする
「車は止まってくれるだろう」と過信せず、手を上げて「渡りたい」という意思をはっきり示しましょう。
ドライバーに気づいてもらうことが、何より大切です。
2. 車が完全に止まってから渡る
車が減速しているように見えても、完全に止まるまで待ちましょう。
特に、対向車線の車にも注意が必要です。片側の車が止まっても、反対側から来る車が止まるとは限りません。
3. 自転車は歩行者がいる時は降りて押して渡る
警視庁の自転車ルールによると、自転車は横断歩道を乗ったまま渡ることができます。
ただし、「横断中の歩行者の通行を妨げるおそれがある場合は、自転車に乗ったまま通行してはいけません」とされています。
歩行者がいる時は、自転車から降りて押して渡る。これが安全です。
4. 無理な横断はしない
横断歩道があっても、車が途切れるまで待つ。横断歩道のない場所では絶対に横断しない。
自分の命は、自分で守りましょう。
🏛️ 社会全体でできること
- ダイヤマークの認知度向上:学校の交通安全教室や、免許更新時の講習で、ダイヤマークの意味をしっかり教える
- 取り締まりの強化:横断歩行者妨害違反の取り締まりを強化し、「止まらないと捕まる」という意識を広める
- 道路環境の改善:見通しの悪い場所の横断歩道には、信号機を設置する
🔚 まとめ:誰もが加害者にも被害者にもなりうる
伊東市で起きたこの事故は、交通ルールを守っていた人が加害者になってしまうという、あまりにも理不尽な事故でした。
亡くなった8歳の男の子はもちろん、追突された77歳のドライバーも、法律的には責任を問われなくても、一生その記憶を背負って生きていくことになります。
この事故から学ぶべきこと
- 横断歩道の手前にあるダイヤマークは「この先に横断歩道がある」という予告。見たら必ず減速する
- 前の車が止まったら「横断者がいる」と考える。追い越したり、クラクションを鳴らしたりしない
- 十分な車間距離を保ち、前方不注意をなくす。運転中のスマホ操作は絶対にしない
- 歩行者・自転車は手を上げて意思表示をし、車が完全に止まってから渡る
- 2024年でも約半数の車が横断歩道で止まっていない。社会全体で意識を変える必要がある
誰もが加害者にも被害者にもなりうる交通社会。一つ一つのルールには、こうした悲劇を防ぐための意味があります。
明日からできることを、一つずつ実践していきましょう。横断歩道で止まる。ダイヤマークを意識する。手を上げて意思表示をする。
小さな行動の積み重ねが、命を守ります。
❓ よくある質問(FAQ)
Q1. 横断歩道で止まった車が追突された場合、責任はどうなりますか?
基本的に追突事故の過失割合は「追突した側10:追突された側0」となり、追突した側が100%悪いとされます。横断歩道で正しく停止した車には責任はありません。ただし、法律的に無罪でも、轢いてしまった心理的負担は残ります。
Q2. 信号のない横断歩道で止まる車はどのくらいいますか?
2024年のJAF調査によると、全国平均で53.0%です。つまり約半数の車が止まっていません。都道府県別では長野県が最も高く87.0%、富山県が最も低く31.6%と大きな地域差があります。
Q3. 横断歩道の手前にある白いひし形(ダイヤマーク)は何の意味ですか?
ダイヤマークは「この先に横断歩道がある」という予告の道路標示です。横断歩道の約50m手前と約30m手前に設置されており、ドライバーに減速を促す役割があります。しかし6割以上の人がこの意味を知らないとされています。
Q4. 自転車で横断歩道を渡る時のルールは?
自転車は横断歩道を乗ったまま渡ることができますが、横断中の歩行者の通行を妨げるおそれがある場合は降りて押して渡らなければなりません。歩行者がいる時は自転車から降りるのが安全です。
📚 参考資料