2025年8月29日、厚生労働省は再生医療で患者が死亡したとして、再生医療安全性確保法に基づく初の緊急命令を出しました。東京都中央区の東京サイエンスクリニックと埼玉県のコージンバイオ埼玉細胞加工センターに業務停止を命じたこの事件は、日本の再生医療業界に大きな衝撃を与えています。
しかし、この事故の背景を詳しく調べると、単発の医療事故ではない深刻な構造的問題が見えてきます。実は関係した企業には過去にも類似の問題があり、さらに法改正直後というタイミングでの事故発生は、現在の規制体系の限界を浮き彫りにしているんです。

🚨 細胞投与で患者死亡、何が起きたのか?
厚労省の発表によると、亡くなったのは外国籍の50代女性でした。慢性的な痛みの治療を目的に、8月20日に東京サイエンスクリニックで自己脂肪由来の幹細胞による点滴治療を受けていたところ、治療中に体調が急変。搬送先の病院で死亡が確認されました。
💡 実はこの緊急命令、再生医療安全性確保法に基づく患者死亡による史上初のケースなんです。
これまで10年以上の法律施行期間中、患者死亡による緊急命令は一度も発出されたことがありませんでした。
クリニック側はアナフィラキシーショック(急激なアレルギー反応)が起きた疑いがあると説明しています。しかし厚労省は「経緯を考えると、再生医療との関連が否定できない」として、詳しい原因究明を進めています。
注目すべきは対応の迅速さです。8月20日に治療→27日に厚労省に報告→29日に緊急命令という流れで、わずか9日間で法的措置が取られました。これは事態の深刻さを物語っています。
しかし、この事故の背景には、より深い問題が隠されていたんです。
🏢 東京サイエンスクリニックとコージンバイオの背景
今回事故が起きた東京サイエンスクリニックは、実は事故直前に名称変更を行っていました。8月22日にクリニック名を、8月25日に開設者名をそれぞれ変更していたことが厚労省の発表で明らかになっています。
前の名称は「一般社団法人THティーエスクリニック」でした。なぜこのタイミングで名称変更が?と疑問に思いませんか?
一方、細胞を加工していたコージンバイオ株式会社は、埼玉県坂戸市に本社を置く上場企業です。バイオテクノロジー事業を手がけ、再生医療業界では一定の信頼を持つ存在とされていました。
2024年11月、同社が運営する池袋の細胞加工センターで加工した細胞にコンタミネーション(汚染)が発生。医療法人輝鳳会のTHE K CLINICで投与を受けた中国からの患者2名が感染症による重い症状で入院する事故が起きていました。
🔍 深刻な構造的問題
この時も問題となったのは、院内での細胞加工の責任が医療法人にあるにも関わらず、実際の作業を外部企業に委託することで責任の所在が不明確になる構造でした。再生医療安全推進機構は「適当で危険」と厳しく批判していたんです。
つまり今回の事故は、個別のクリニックの問題ではなく、業界全体の構造的課題が表面化したケースと言えるでしょう。
これは個別の問題ではなく、業界全体の構造的課題なんです…
⚠️ 自由診療の再生医療が抱える根深い問題
なぜこのような事故が起きるのでしょうか?その背景には、日本の再生医療を取り巻く複雑な問題があります。
まず理解しておきたいのは、今回の治療が「自由診療」だったということです。自由診療では医師と患者の合意があれば、安全性や有効性の証明が十分でない治療でも提供可能なんです。
🎓 京都大学iPS細胞研究所の研究結果
安全性や有効性が証明されていない幹細胞治療が高額で提供され、世界中で問題視されています。実際に合併症や死亡事例、患者・家族による訴訟も報告されているんです。
さらに驚くべき事実があります。投与された幹細胞は、最初の24時間でほとんどが肺に集まります。そのため肺塞栓のリスクがゼロではありません。品質の悪い幹細胞の場合、かなりの割合で死んでいるために毛細血管で詰まりやすく、最悪の場合は死亡する可能性もあるのです。
2014年の再生医療安全性確保法施行から10年以上が経過し、届出件数は3,800件を超えました。そのうち約8割が第三種再生医療等に分類される比較的リスクの低い治療とされています。
😱 しかし問題なのは「届出制」という仕組みです。
院内の細胞加工施設は「許可」ではなく「届出」で済むため、十分な審査なしに治療が開始される可能性があります。つまり「合法だから安全」という認識は間違いだったんです。
では、今後どのような対策が期待されるのでしょうか?
🔮 再生医療の安全確保、今後の展望は?
皮肉なことに、今回の事故は再生医療安全性確保法の改正直後に起きました。2025年5月31日に改正法が施行されたばかりで、細胞加工物を用いない遺伝子治療なども新たに法の対象に加わったところだったんです。
厚生科学審議会再生医療等評価部会では、すでに今後の検討事項が議論されています。特に注目されているのは:
- 超希少疾患など市場性の低い疾患での研究開発促進
- 細胞保管の在り方の見直し
- 届出制から許可制への移行検討
また、日本再生医療学会でも「細胞保管に関する考え方」を文書化し、適切な基準づくりを進めています。
💡 患者側ができる対策
- 治療前に医師から十分な説明を受ける
- 厚生労働省に届出済みの医療機関かを確認する
- 過度に効果を宣伝する医療機関は避ける
- 標準治療がある場合は、そちらを優先検討する
今回の事故を契機に、業界全体での安全性向上への取り組みが加速することが期待されます。
📝 まとめ
今回の細胞投与による患者死亡事故は、日本の再生医療業界にとって重大な転換点となりました。重要なポイントを整理すると:
- 再生医療安全性確保法に基づく患者死亡による史上初の緊急命令
- 関係企業コージンバイオには過去にも類似の問題事例があった
- 自由診療の構造的問題により「合法だから安全」は間違い
- 法改正直後という絶妙なタイミングでの事故発生
- 届出制から許可制への移行など、今後の規制強化が焦点
再生医療は確かに画期的な治療法として期待されています。しかし今回の事故が示すように、安全性の確保は決して簡単ではありません。。
この事故を教訓として、より安全で信頼できる再生医療の実現に向けた取り組みが進むことを期待したいと思います。あなたも医療を選択する際は、ぜひ慎重な判断を心がけてください。
❓ よくある質問
Q: なぜ今回の緊急命令は史上初なのですか?
A: 2014年の再生医療安全性確保法施行以来、患者死亡による緊急命令発出は今回が初めてです。これまで10年以上にわたって、死亡事故による法的措置は取られたことがありませんでした。
Q: コージンバイオは以前にも問題を起こしていたのですか?
A: はい。2024年11月に同社運営の池袋細胞加工センターで細胞汚染が発生し、中国からの患者2名が感染症で入院する事故が起きていました。
Q: 自由診療の再生医療にはどんなリスクがありますか?
A: 安全性や有効性が十分証明されていない治療が提供される可能性があります。投与された幹細胞は24時間で肺に集まるため、塞栓症のリスクもあります。
Q: 今後、再生医療の規制はどう変わる可能性がありますか?
A: 現在の「届出制」から「許可制」への移行や、細胞保管基準の厳格化などが検討されています。2025年5月に法改正されたばかりですが、さらなる規制強化が議論される可能性があります。
Q: 安全な再生医療クリニックを選ぶには?
A: 厚生労働省への届出確認、過度な宣伝をしていないか、十分な説明があるか、標準治療の選択肢も提示されるかを確認することが重要です。
参考情報
- 厚生労働省: 再生医療等の安全性の確保等に関する法律に基づく緊急命令について ()
- 南日本新聞: 自由診療の細胞投与で患者死亡 東京のクリニックに業務停止命令 ()
- 京都大学iPS細胞研究所: 治療として提供される再生医療、安全性・有効性に疑問 ―再生医療法に構造的課題か― ()