これは成功?それとも失敗?
日本では約1万5千人が臓器移植を待っています。
しかし、2024年度に脳死状態で臓器を提供してくれた人は、わずか131人でした。移植を待ちながら亡くなる人は、今も後を絶ちません。
そんな中、2024年5月に中国で驚くべき手術が行われました。71歳の男性患者に、遺伝子を組み換えたブタの肝臓を移植したのです。
患者は手術後171日間生存し、このうち38日間はブタの肝臓が体内で機能しました。この挑戦は成功だったのでしょうか、それとも失敗だったのでしょうか?
今回は、世界で注目を集めたこの手術の全貌と、「異種移植」が私たちにもたらす未来について、詳しく見ていきます。
📋 この記事でわかること

🔬 そもそも「異種移植」って何?今なぜ注目されているのか
「異種移植」とは、動物の臓器を人間に移植することです。
SF映画のような話に聞こえるかもしれませんが、実は医療の世界では長年研究されてきた技術なんです。
💔 世界中で深刻な臓器不足
なぜ今、異種移植が注目されているのでしょうか?
理由は単純です。臓器が圧倒的に足りないからです。
日本(2025年3月末時点):
• 心臓:809人
• 肺:627人
• 肝臓:470人
• 腎臓:1万4721人
しかし2024年度の脳死ドナーはわずか131人
需要と供給のバランスが、あまりにも崩れているのです。日本臓器移植ネットワークのデータによると、心臓移植を受けた人の平均的な待機期間は約3年半、肝臓は約1年、腎臓は約15年にも及びます。
その間に、多くの人が命を落としているのが現実です。
📜 実は300年以上前から試みられていた
驚くことに、異種移植の試みは決して新しいものではありません。
順天堂大学の研究資料によると、1667年、フランスの医師が高熱に苦しむ15歳の少年に子ヒツジの血液を輸血したという記録が残っています。約350年も前のことです。
その後も、1905年にはウサギの腎臓を小児に移植する試みが報告され、20世紀初頭には仔羊、ブタ、霊長類の臓器を使った移植の研究が行われてきました。
ただし、これらの初期の試みは、ほとんどが失敗に終わっています。最大の原因は「拒絶反応」、つまり人間の体が異物を攻撃してしまう仕組みでした。
🧬 遺伝子編集技術が状況を変えた
では、なぜ今になって異種移植が再び注目されているのでしょうか?
答えは「遺伝子編集技術」の進歩です。
ゲノム編集により、動物への遺伝子操作の技術革新がなされ、異種移植はより注目されつつあります。動物の遺伝子を人間に合わせて編集することで、拒絶反応のリスクを大幅に減らせるようになったのです。
そして2022年1月、アメリカのメリーランド大学で世界初となる遺伝子操作されたブタの心臓をヒトに移植する手術が行われました。これが大きな転換点となり、世界中で異種移植の研究が加速しています。
異種移植は「未来の夢物語」から「実現可能な医療技術」へと、大きく前進しています
それでは、なぜ数ある動物の中で「ブタ」が選ばれたのでしょうか?次のセクションで詳しく見ていきましょう。
🐷 なぜ「ブタ」の臓器が選ばれたのか?他の動物じゃダメなの?
「動物の臓器を使うなら、人間に近いサルやチンパンジーの方がいいんじゃないの?」
そう思う人も多いでしょう。実際、最初はそう考えられていました。
🦍 当初はチンパンジーが最有力候補だった
チンパンジーは臓器のサイズがヒトと同じで、血液型適合性も良好で、異種移植の候補として最良と考えられていました。
1963年、アメリカのTulane大学の医師たちが、瀕死の6人の患者に対してチンパンジーからヒトへの腎臓移植を試みたこともあります。日本人医師の藤堂省先生も、1992年6月28日にヒヒの肝臓を肝不全患者に移植する手術を行い、患者は72日間生存しました。
人間に近い動物の方が、体が受け入れやすいと考えられたのです。
❌ チンパンジーがダメだった3つの理由
しかし、チンパンジーや霊長類は、結局使えないことが分かりました。理由は3つあります。
まず、チンパンジーは絶滅の危機に瀕している種です。医療のために絶滅危惧種を使うことは、倫理的に問題があります。
次に、ヒヒは身体のサイズが小さく、血液型O(普遍的なドナーとなりうる)の割合が低く、長い妊娠期間と出産数の少なさという問題があります。つまり、たくさん育てることが難しいのです。
そして最も重要なのが、霊長類からの移植に関する主な問題は、ヒトへの病気感染のリスクです。人間に近い動物ほど、実は人間にうつる病気も多いのです。
✨ ブタが選ばれた3つの理由
そこで注目されたのが、ブタでした。
ブタは現在、臓器提供のための最良の候補とされています。理由は明確です。
ブタの臓器は解剖学的にほぼヒトと同じサイズ。大きすぎず、小さすぎず、ちょうど良い。
ブタは容易に入手可能。養豚は世界中で行われており、医療用に育てることも技術的に難しくない。
ヒトとの系統学的距離が遠いため、異種間の疾病の伝播リスクが減少。遠い動物の方が実は安全。
さらに、長い世代にわたって家畜としてブタはヒトと密接に接触しているため、未知の疾患がある可能性も低いという利点もあります。
🔬 遺伝子編集でさらに人間に近づける
そして現在の技術では、免疫拒絶に関係する10種類の遺伝子の操作に加えて、ブタ内在性レトロウィルスの全遺伝子を不活化したブタを開発できるようになっています。
つまり、ブタの遺伝子を人間に合わせて調整することで、「人間に近い動物」以上に「人間の体に合う臓器」を作れるようになったのです。
人間に最も近い動物ではなく、
最も適した動物を選んで遺伝子を調整する方が、
成功への近道だった!
それでは、この技術を使った今回の手術では、具体的に何が行われたのでしょうか?
🏥 今回の手術の全容:71歳男性に何が起きたのか
それでは、2024年5月に中国で行われた手術の詳細を見ていきましょう。
⚠️ 患者は「最後の選択肢」を選んだ
患者は71歳の男性でした。
彼はB型肝炎に関連した肝硬変を患っており、さらに肝臓の右葉には大きな腫瘍がありました。医師たちは化学療法で腫瘍を小さくしようとしましたが、うまくいきませんでした。
普通なら、肝臓の一部を切除する手術を行います。しかし、男性の残っている肝臓は小さすぎて、切除すると生命維持に必要な機能を果たせないと判断されました。
入院から約3週間後、状況はさらに悪化しました。男性は激しい腹痛を訴え、検査の結果、腫瘍が破裂する危険性があることが分かったのです。
👨👩👧 家族にドナーはいなかった
医師たちは、家族の中で肝臓組織を提供できる人がいないか検査しました。
しかし、適合者はいませんでした。
このままでは、男性は腫瘍破裂で命を落とす可能性が高い状況でした。そこで、遺伝子を組み換えたブタの肝臓が、男性の命を救う唯一の選択肢とされたのです。
男性と娘さんは医師と協議した上で、この世界初の挑戦を受ける決断を下しました。
🧬 使われたのは「特別なブタ」
移植されたブタは生後11カ月のクローンブタで、拒絶反応を抑えるために10カ所の遺伝子編集が施されていました。
ブタの遺伝子の中で、人間の体が「これは異物だ!」と反応してしまう部分を、10カ所も書き換えたということ。
まるで、ブタの臓器に「人間の体に合うように」という改造を10回も加えたようなもの。
さらに、男性には異種臓器を拒絶しないよう、免疫抑制剤も投与されました。これは、体の防衛システムを少し弱めて、ブタの肝臓を攻撃しないようにする薬です。
⚕️ 手術の内容
2024年5月、手術が行われました。
医師たちはまず、男性の肝臓から腫瘍を切除しました。そして、残った肝臓に、遺伝子を組み換えたブタの肝臓を移植したのです。
つまり、男性の体内には、自分の肝臓の一部と、ブタの肝臓の両方が存在する状態になりました。
これは「ブタの肝臓で完全に置き換える」のではなく、「ブタの肝臓で補助する」という発想だったのです。
この世界初の挑戦は、どのような結果をもたらしたのでしょうか?次のセクションで見ていきましょう。
✅ 手術直後は成功?ブタの肝臓は実際に機能したのか
手術の結果は、驚くべきものでした。
💓 ブタの肝臓が「生き始めた」
手術が終わると、ブタの肝臓は赤く変わりました。これは血液が流れ始めた証拠です。
そして、外胆管から胆汁が流れ出しました。胆汁とは、肝臓が作る消化を助ける液体です。この胆汁の分泌量は、時間とともにどんどん増えていきました。
つまり、ブタの肝臓は人間の体内で、ちゃんと「肝臓としての仕事」を始めたのです。
📈 肝機能が劇的に改善
術後最初の1日で、肝機能を示す数値が大きく上昇しました。
これは、ブタの肝臓が正常に機能している証拠です。さらに、炎症や拒絶反応の兆候は見られませんでした。
手術から10日後の時点でも、急性拒絶反応の兆候はありませんでした。それどころか、患者自身の肝臓の左葉(残っていた部分)の働きが、手術前よりも改善しているように見えたのです。
👨⚕️ 医師たちの反応
医学誌ジャーナル・オブ・ヘパトロジーに掲載された研究によると、初期段階での成功は、医療チームも驚くほどのものだったようです。
ブタの肝臓は、予想以上に完璧に機能していました。
「これで患者は助かるかもしれない」
そう思えるような、希望に満ちた滑り出しだったのです。
しかし、この順調な経過は、いつまでも続くわけではありませんでした。次のセクションで、その後の展開を見ていきましょう。
❓ なぜ38日目にブタの肝臓を摘出したのか
しかし、順調に見えた経過に、徐々に変化が現れ始めました。
💔 25日目から心臓に影響が
手術から25日目になると、患者の心臓に徐々に進行性のストレスの兆候が現れ始めました。
心臓にストレスがかかるとはどういうことでしょうか?
人間の体は、すべての臓器が連携して働いています。肝臓が2つある状態(自分のものとブタのもの)は、血液を循環させる心臓にとって、通常よりも大きな負担になっていた可能性があります。
⚠️ 28日目と33日目に炎症の兆候
28日目と33日目の検査では、移植に関連した炎症性変化が見られました。
医師たちは、使用していた免疫抑制剤の一部を変更しました。しかし、移植が当初ほどうまく機能していないことを示す他の兆候も現れていました。
体が少しずつ、「やっぱりこれは異物だ」と反応し始めていたのかもしれません。
🚨 37日目に急変
37日目、患者の血圧が急激に低下し、心拍数が上昇、意識がもうろうとする状態になりました。
これは危険な状態です。このまま放置すれば、命に関わる可能性がありました。
✨ 摘出は「失敗」ではなく「成功」の証
ここで医師たちは重要な判断を下しました。
患者自身の肝臓が、生命維持に十分な機能を果たせるようになっていると判断したのです。
そして38日目、ブタの肝臓を摘出しました。
いいえ、ある意味では成功です。
ブタの肝臓は38日間、男性の命をつなぎ、その間に男性自身の肝臓が回復する時間を与えたのです。
これは「橋渡し治療」と呼ばれる考え方です。ブタの肝臓は永久的な解決策ではなく、患者自身の肝臓が回復するまで、または人間のドナーが見つかるまでの「つなぎ」として機能したのです。
しかし、なぜそもそも拒絶反応が起きるのでしょうか?どのように対処したのでしょうか?次のセクションで詳しく見ていきましょう。
🛡️ 最大の壁「拒絶反応」とは?どう対処したのか
ここで、異種移植最大の課題「拒絶反応」について説明しましょう。
⚔️ 拒絶反応とは何か
拒絶反応とは、免疫系が移植組織を異物として認識し、攻撃するために生じる反応です。
私たちの体には、ウイルスや細菌などの異物を攻撃する「免疫システム」があります。これは普段は私たちを守ってくれる大切な仕組みです。
しかし、移植された臓器も、免疫システムにとっては「異物」なのです。
人間同士の臓器移植でも拒絶反応は起こります。ましてや、種の違う動物の臓器となれば、拒絶反応のリスクはさらに高くなります。
🧬 遺伝子編集で拒絶反応を減らす
今回の手術で使われたブタは、10カ所の遺伝子編集が施されていました。
これは何を意味するのでしょうか?
人間の免疫システムが「これは異物だ!」と判断するのは、細胞の表面にある特定の「目印」を見ているからです。この目印が違うと、免疫システムは攻撃を開始します。
遺伝子編集では、ブタの細胞表面の目印を、人間に近いものに変えることができます。10種類の遺伝子の操作に加えて、ブタ内在性レトロウィルスの全遺伝子を不活化することで、拒絶反応と感染症のリスクを大幅に減らせるのです。
「ブタ」という看板を外して、「人間の仲間」という看板に付け替えるようなものです
💊 免疫抑制剤の役割
それでも完璧ではありません。そこで、免疫抑制剤も併用されます。
免疫抑制薬と呼ばれる薬を投与して拒絶を制御しますが、この薬は免疫系を抑制するため、体が異物を認識して破壊する能力も低下します。
つまり、体の防衛システム全体を少し弱めることで、移植された臓器への攻撃も弱めるのです。
ただし、これには副作用もあります。免疫システムが弱まると、感染症にかかりやすくなるというリスクがあります。
📊 今回の手術での拒絶反応
今回の手術では、手術直後から10日間は、拒絶反応の兆候はありませんでした。遺伝子編集と免疫抑制剤の効果が出ていたのです。
しかし、25日目以降、徐々に体への負担が現れ始めました。これが拒絶反応だったのか、心臓への負担だったのか、あるいは両方だったのかは、完全には分かっていません。
異種移植では、糖鎖抗原に対する難治性拒絶反応という、通常の免疫抑制薬が効きにくい特殊な拒絶反応も知られています。
拒絶反応との戦いは、まだ完全に解決されたわけではありません。しかし、38日間も機能したということ自体が、大きな進歩なのです。
それでは、患者はその後どうなったのでしょうか?171日間という期間にはどんな意味があったのでしょうか?次のセクションで見ていきましょう。
⏱️ 患者はその後どうなった?171日間の意味
ブタの肝臓を摘出した後、患者はどうなったのでしょうか?
✅ 摘出後も肝臓は良好に機能
38日目にブタの肝臓を摘出した後も、患者自身の肝臓は良好に働き続けました。
これは重要な成果です。ブタの肝臓が38日間働いている間に、患者自身の肝臓が回復する時間が得られたのです。
つまり、「橋渡し治療」としての役割は、確かに果たされたと言えます。
⚠️ 135日目に消化管出血
しかし、135日目に上部消化管出血を起こしました。
上部消化管出血の原因として、肝硬変による食道静脈瘤の破裂が考えられます。これは、肝硬変の合併症として知られているものです。
患者はもともとB型肝炎関連の肝硬変を患っていました。肝硬変では、血液が肝臓に流入しづらくなり、胃や食道の表面を通る血管が太く脆くなります。それが破裂すると多量の出血が生じます。
💔 171日後の死亡
移植から171日後、患者はこの出血が原因で亡くなりました。
これは、ブタの肝臓移植が直接の死因ではありません。もともと患っていた肝硬変の合併症が原因でした。
🌟 171日間の医学的意義
患者が亡くなったという事実だけを見れば、「失敗」と思われるかもしれません。
しかし、医学の世界では違います。
医学誌ジャーナル・オブ・ヘパトロジーに掲載された論文では、この研究によって移植の課題と実現可能性について重要な知見が得られたとされています。
もし将来、この技術が実用化されれば、移植を待つ患者の命をつなぐ選択肢になるかもしれません。
171日間という期間は、そのための重要な一歩だったのです。
それでは、私たちが住む日本では、こうした治療を受けられるようになるのでしょうか?次のセクションで見ていきましょう。
🇯🇵 日本ではできる?法律と倫理の壁
「日本でも、こうした治療を受けられるようになるの?」
多くの人が気になる疑問でしょう。
😢 日本の臓器不足は世界最悪レベル
実は、日本の臓器不足は世界でも特に深刻です。
2025年3月31日時点で、心臓809人、肺627人、肝臓470人、腎臓1万4721人が臓器移植を待っています。
一方で、2024年度における脳死者からの臓器提供は131名にとどまっています。
🇪🇸 スペイン:40.8人
🇺🇸 アメリカ:41.6人
🇰🇷 韓国:8.56人
🇯🇵 日本:0.62人
日本はスペインの約50分の1
🤔 なぜ日本は臓器提供が少ないのか
理由はいくつかあります。
アメリカ、ドイツ、韓国では本人が生前、臓器提供の意思表示をしていた場合、または家族が同意した場合に提供が行われる「オプティング・イン」という制度が取られています。
一方、イギリスやフランス、スペインなどでは本人が生前、臓器提供に反対の意思を残さない限り、提供するものとみなす「オプティング・アウト」という制度です。
日本は「オプティング・イン」の制度ですが、意思表示をしている人が非常に少ないのが現状です。
🔬 日本でも研究は進んでいる
こうした状況の中、日本でも異種移植の研究は進んでいます。
2024年2月、明治大学発のベンチャー企業「ポル・メド・テック」と米国イージェネシスが、異種臓器移植用ブタの国内生産に初めて成功しました。
免疫拒絶に関係する10種類の遺伝子の操作に加えて、ブタ内在性レトロウィルスの全遺伝子を不活化したブタのクローン個体が日本で誕生したのです。
また、厚生労働省は異種移植の実施に伴う公衆衛生上の感染症問題に関する指針を策定しており、2022年8月には日本医療研究開発機構(AMED)に研究班を設置し、異種移植に関する検討を2023年度から約3年かけて実施することが報じられました。
⚖️ 倫理的な議論も必要
ただし、技術的な問題だけでなく、倫理的な議論も必要です。
動物の命を人間の医療のために使うことへの賛否、費用の問題、誰がこの治療を受けられるのかといった公平性の問題など、社会全体で考えるべき課題が山積しています。
それでも、臓器移植を待ちながら亡くなる人が後を絶たない現状を考えると、異種移植は検討すべき選択肢の一つなのです。
異種移植の研究は着実に進んでいる
それでは、異種移植はいつ実用化されるのでしょうか?私たちの未来の医療はどう変わるのでしょうか?最後のセクションで見ていきましょう。
🚀 実用化はいつ?異種移植が変える未来の医療
最後に、異種移植の未来について見ていきましょう。
🌍 世界の最新動向
今回の中国での手術以外にも、世界中で異種移植の研究が進んでいます。
2021年にニューヨーク大学とアラバマ大学でブタの腎臓が脳死患者に移植され、2022年1月にはメリーランド大学で世界初のブタの心臓移植が実施されました。
着実に、記録は伸びています。
🌉 「橋渡し治療」という新しい概念
重要なのは、異種移植が「永久的な解決策」として考えられているわけではない、ということです。
現在の研究では、「橋渡し治療」、つまり本来の人間のドナーが見つかるまで、または患者自身の臓器が回復するまでの「つなぎ」として活用することが想定されています。
厚生労働省の指針でも、異種移植は「同種臓器移植までの橋渡し又は急変時の対応策として、期待されている」と位置付けられています。
それが、異種移植の当面の目標なのです。
⚠️ 実用化までの課題
実用化に向けては、まだ多くの課題があります。
長期生存の実現
現時点での最長記録は130日です。これをさらに伸ばす必要があります。
感染症リスクの管理
異種移植に用いる臓器に随伴した異種動物由来感染症については、現時点では未知の感染症の発生及び伝播が起こらないことを保証できる段階ではありません。
費用の問題
遺伝子編集されたブタの育成、手術、術後管理には、莫大な費用がかかります。
倫理的な議論
社会全体での合意形成が必要です。
🕐 専門家の見解
実用化にはどれくらいかかるのでしょうか?
専門家の間でも意見は分かれていますが、多くは「数年から10年以上」と見ています。
異種移植の臨床応用へ準備段階となっている。多くの課題が残されているというのが現状です。
しかし、確実に前進しています。2022年に世界初の心臓移植が行われ、2024年には肝臓移植と腎臓移植で新たな記録が生まれました。
❤️ あなたや家族が助かる日が来るかもしれない
臓器移植を待つ人は、日本だけで約1万5千人います。
そのうちの多くが、ドナーが見つからずに亡くなっているのが現実です。
もし異種移植が実用化されれば、こうした人々に新たな選択肢を提供できます。完璧な解決策ではないかもしれませんが、命をつなぐための貴重な時間を与えられるのです。
かつてSFの世界だった医療が、
今、現実のものになろうとしています
それは、臓器移植を待つすべての人々にとって、
そして私たちの誰もが将来必要とするかもしれない
医療技術として、大きな希望の光なのです
📝 この記事のまとめ
- 2024年5月、中国で世界初となるブタの肝臓を人間に移植する手術が行われ、患者は171日間生存した
- ブタが選ばれたのは、臓器サイズが人間に近く、入手が容易で、疾病伝播リスクが低いため
- 遺伝子編集技術の進歩により、10カ所の遺伝子を編集したブタの臓器で拒絶反応を大幅に減らせるようになった
- 今回の手術では、ブタの肝臓は38日間機能し、患者自身の肝臓が回復する「橋渡し治療」としての役割を果たした
- 日本の臓器提供数は世界最低レベル(人口100万人あたり0.88人)だが、国内でも異種移植用ブタの生産に成功するなど研究は進んでいる
- 実用化には数年から10年以上かかると見られるが、臓器移植を待つ多くの人々にとって大きな希望となる可能性がある
倫理的な問題や実用化への期待など、
コメント欄で意見を聞かせてください。
📚 参考文献リスト