NHKが2025年8月に放送した戦争ドラマが、思わぬ形で法廷闘争に発展しようとしています。
⚠️ 実は、NHK会長も認めた「史実と異なる脚色」が原因。公共放送の戦争ドラマが遺族を激怒させ、今月中にも訴訟が起こされる見通しです。

「フィクションです」と断りを入れていても許されない一線とは何だったのか。この問題の全容を詳しく見ていきます。
📋 この記事でわかること
⚖️ NHKドラマで「卑劣な人物」に描かれた実在の陸軍中将、遺族が激怒して提訴へ
訴訟を起こすのは、飯村豊(いいむら・ゆたか)さん。78歳の元駐フランス大使という、外交の最前線で活躍してきた人物です。
彼が怒っているのは、自分の祖父・飯村穣(いいむら・じょう)陸軍中将の描かれ方。NHKが8月に放送した戦争ドラマで、祖父がまるで「卑劣な人物」のように描かれたと主張しています。
飯村さんは「ドラマとはいえ、あまりにも卑劣な人物に描かれ、名誉を傷つけられた」と述べており、準備が整い次第、今月中にも東京地裁に民事訴訟を起こす方針を固めました。
実は、飯村さんはすでに8月26日に記者会見を開き、放送倫理・番組向上機構(BPO)への申し立ても行っています。
元外交官という社会的地位のある人物が、公共放送NHKを相手に訴訟を起こす。これは極めて異例の事態です。
💡 次は、問題となったドラマの内容を詳しく見ていきましょう。
📺 問題のドラマ「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」とは?
では、どんなドラマだったのでしょうか。
2025年8月16日と17日の2夜連続で放送されたNHKスペシャル「シミュレーション~昭和16年夏の敗戦~」。戦後80年の節目に制作された特別番組でした。
🎬 ドラマの内容
舞台は1941年(昭和16年)、真珠湾攻撃の8か月前。
当時の近衛首相が設立した「総力戦研究所」という組織が中心です。この組織は、もし日本がアメリカと戦ったらどうなるのかをシミュレーションするために作られました。
軍人、官僚、民間企業から選ばれた若きエリートたちが集まり、国家の機密情報を使って徹底的に分析。彼らが出した結論は「日本がアメリカと戦えば、必ず負ける」というものでした。
🔍 実はこれ、歴史的事実。80年前に、日本の若手エリートたちは戦争の結果を正確に予測していたのです。
圧倒的な国力の差、燃料不足、長期戦に耐えられない現実…すべてが「敗戦」を示していました。
🌟 豪華キャストで話題に
主演は池松壮亮さん。他にも仲野太賀さん、岩田剛典さん、二階堂ふみさん、佐藤浩市さんなど豪華俳優陣が出演。
脚本・演出は「舟を編む」で日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞した石井裕也監督が担当しました。
原案は作家・猪瀬直樹さんの「昭和16年夏の敗戦」。ドラマとしての完成度は高く、視聴者からも「よくできている」という声が多く上がっていました。
🤔 では、何が問題だったのでしょうか。次のセクションで史実との違いを見ていきます。
📚 史実との決定的な違い:実際の飯村穣中将はどんな人物だったのか
ここが最大の問題点です。
ドラマの中で、総力戦研究所の所長は「若手たちの自由な議論を妨げ、『日本必敗』という結論を覆すよう圧力をかける人物」として描かれていました。
⚠️ しかし、実際はまったく逆だったのです。
✅ 史実の飯村穣中将
実在の所長・飯村穣中将は、若手たちが自由に議論できるよう後押ししていた人物でした。
史料や関係者の証言から、以下のことが分かっています:
- ✓ 若手メンバーに「のびのび議論してほしい」と励ましていた
- ✓ 「日本必敗」という厳しい結論が出ても、それを尊重した
- ✓ 当時の東條英機陸軍大臣がほぼ毎日見学に来ていたが、結果を変えるよう圧力はかけなかった
孫の飯村豊さんは会見で「祖父がそういう人間ではなかったことは、いろんな書物にも出ています」と強調しています。
実は、飯村穣中将は戦後、この総力戦研究所での功績で名を知られることを「予想外」と語っていたそうです。本人にとっては、南方軍総参謀長として戦った経験の方が重要だったのかもしれません。
❓ なぜ真逆に描いたのか
「自由な議論を後押しした人物」が、なぜドラマでは「圧力をかける存在」に変わったのでしょうか。
これについて、石井裕也監督は後にコメントを発表しています(詳しくは後述)。
💭 この史実との違いが、遺族の怒りを買った最大の理由です。次は遺族の主張を詳しく見ていきましょう。
😡 遺族が怒った本当の理由:「誤った歴史が広まる」懸念
飯村豊さんが訴訟を決意した理由は、単なる「名誉毀損」だけではありません。
8月26日の会見で、飯村さんは2つの問題点を指摘しました。
🔴 問題点1:祖父の人格を毀損する描き方
「ドラマを見た感じ、軍人が出てきて怒鳴りまくっていて、責任逃れで部下を圧迫するような人間として描かれていた」
総力戦研究所で最も重要だったのは「自由な議論」です。それを妨げる人物として祖父が描かれたことに、飯村さんは強い憤りを感じています。
🔴 問題点2:歴史の歪曲・捏造
「歴史を歪曲し、捏造して伝えるのは遺憾」
飯村さんの怒りは、個人的な名誉の問題を超えています。
💬 「史実のドラマ化には超えてはならない一線がある。誤った歴史が広まってしまう恐れがあり、視聴者に誤解を与えかねない」
NHKスペシャルは「史実を語る番組」として多くの視聴者から信頼されています。そこで誤った歴史認識が広まることへの懸念が、訴訟という行動につながったのです。
📝 ドラマにはフィクション表記があったが
番組の冒頭には「所長および関係者はフィクションとして描かれています」というテロップが表示されていました。
しかし飯村さんは「ドラマのインパクトが大きく、どこまでが創作でどこまでが史実なのか分かりにくい」と指摘しています。
特に、ドラマには東條英機、近衛文麿といった実名の政治家が登場し、さらには昭和天皇まで登場しました。これにより、視聴者は「史実に基づいている」という印象を強く受けてしまったのです。
🔜 では、NHKと監督はこの問題にどう対応したのでしょうか。次のセクションで見ていきます。
🗣️ NHK会長が認めた「史実と異なる脚色」、監督の反論は
この問題について、NHKのトップと制作側はどう反応したのでしょうか。
📢 NHK会長の異例の発言
NHKの稲葉延雄会長は定例会見で、驚くべき発言をしました。
💬 「フィクションと明示してありましたが、率直に言って、ドラマを面白くするために史実と異なる脚色をしたのではないかと指摘されてもいたしかたない面はあったのでは、と感じました」
自らドラマの問題点を認めたのです。
さらに「今回のようなさまざまな意見が出るような演出というのは、たとえドラマであってもNHKらしくなかったと受け止めています」とも述べました。
実は、公共放送のトップがここまで明確に問題を認めるのは極めて異例です。
🎥 石井裕也監督のコメント
一方、脚本・演出を担当した石井裕也監督はこうコメントしています。
- ▶ 「劇中のキャラクターは全員、原案書籍の中のノンフィクションはもちろんのこと、残された資料や記録に基づいて創作しています」
- ▶ 「個人の人格や人間性を再現することがテーマではなく、当時の状況とそこに生きる人々の葛藤を伝えることが主題の作品です」
- ▶ 「表現の理由と正当性については、然るべきタイミングでお話しすることになります」
監督は「表現の自由」という立場から、自身の創作意図を主張しています。
📖 原案者の猪瀬直樹氏の立場
興味深いことに、原案者の猪瀬直樹さんは自身のnoteで「脚色は当然」と述べ、石井監督を支持しています。
「活字と映像表現は違いますし、限られた時間内に収めるドラマ用に脚色するのは当然のことです」
原作者が監督の判断を尊重する姿勢を示しているのです。
⚖️ では、法的にはどうなのでしょうか。次のセクションで名誉毀損の成立要件を見ていきます。
⚖️ 裁判はどうなる?フィクションでも名誉毀損は成立するのか
ここで多くの人が疑問に思うことがあります。
「フィクションです」と断っていても、名誉毀損になるのでしょうか。
✅ フィクションでも名誉毀損は成立する
答えは「イエス」です。実は、フィクション作品でも名誉毀損が成立するケースがあります。
名誉毀損の法的要件は以下の3つ:
- 公然性:不特定多数が知る可能性がある
- 事実の摘示:具体的な事実を示している
- 社会的評価の低下:人の評判や信用を傷つける
テレビ放送は「公然性」を満たします。ドラマの内容も「事実の摘示」に該当する可能性があります。
📋 フィクション作品での判例
過去の裁判では、実在の人物をモデルにした小説で名誉毀損が認められたケースがあります。
重要なのは「モデルとなった人物が誰であるか特定できるかどうか」です。
今回の場合:
- ● 総力戦研究所の所長は飯村穣中将のみ
- ● ドラマには実名の政治家も登場
- ● 視聴者は容易に「飯村穣中将のこと」と特定できる
つまり、フィクションと断っていても、実在の人物が特定可能で、その人物の社会的評価を下げる内容であれば、名誉毀損が成立する可能性があるのです。
📺 公共放送という立場
さらに、NHKは「公共放送」という特別な立場にあります。
受信料を国民から徴収している以上、通常の民間放送局よりも重い責任が求められます。NHK会長が「NHKらしくなかった」と述べたのも、この責任を意識してのことでしょう。
🔍 今後の争点
裁判では以下の点が争われると予想されます:
- ドラマの描写が飯村穣中将の社会的評価を実際に低下させたか
- 「表現の自由」と「名誉権保護」のバランスをどう取るか
- 公共放送としての責任をどう評価するか
- 事前に遺族への説明が不足していたか
実は、この裁判の結果は今後の歴史ドラマ制作にも大きな影響を与える可能性があります。
💬 最後に、実際にドラマを見た視聴者の声を見ていきましょう。
💬 視聴者の反応:「史実通りでも十分面白かったはず」の声も
この問題について、視聴者はどう受け止めているのでしょうか。
📝 「史実を変える必要はなかった」という意見
最も多かったのが、この意見です。
「当時の状況とそこに生きる人々の葛藤を伝えたいなら、当時の個人の人格や人間性を再現しないとダメだろ。良い人だらけで負けるともわかっていたのに、どうして戦争になったのか?事実こそが教訓なり得て、フィクションでは意味がない」
「このドラマは実際に視聴しましたが、確かに所長は完全なダーティー役でした。史実の飯村中将は若者達に自由闊達に研究を進めさせた人格者だったと言われるから、面白ければ何でもアリ!は違うのではないか」
「普通に史実通りでも十分に見応えと学びのあるドラマになったと思います」
実際にドラマを見た多くの視聴者が、「なぜ史実を変える必要があったのか」という疑問を持っています。
📞 「事前説明が不足していた」という指摘
「本件はNHKが事前に遺族にきちんと説明したり、ラッシュを見せるなどしていれば問題化しなかったのではないか」
という意見も目立ちました。
飯村さんは7月下旬にNHK関係者からドラマ放送の話を聞いたそうです。制作過程での事前説明が不足していたことも、問題を大きくした一因かもしれません。
📡 「公共放送の責任」を問う声
「受信料を強制徴収している立場であるからこそ、好きに脚色してもいいわけではなく、責任というものが伴う」
「公共放送は歴史を正しく伝えるべきだ」
NHKが公共放送であることの重みを指摘する声も多く見られました。
📌 まとめ:フィクションと史実の境界線
NHKの戦争ドラマをめぐる名誉毀損訴訟問題をまとめます。
📝 この問題の要点
- 2025年8月放送のNHKドラマで、実在の陸軍中将が史実と真逆の人物として描かれた
- 孫の飯村豊元駐仏大使が「名誉毀損」として今月中にも提訴予定
- NHK会長は「史実と異なる脚色」を認め、「NHKらしくない」と発言
- フィクションと断っても、実在人物が特定可能なら名誉毀損が成立する可能性がある
- 視聴者からは「史実通りでも十分面白かったはず」という声が多数
フィクションと史実の境界線をめぐるこの訴訟は、公共放送の責任、表現の自由、歴史認識という複数の重要なテーマを含んでいます。
裁判の行方は、今後の歴史ドラマ制作にも大きな影響を与える可能性があります。
「フィクションです」という断り書きだけでは済まされない一線が、法廷で明らかになるかもしれません。
💭 あなたはこの問題をどう考えますか?
表現の自由と歴史の正確性、どちらを優先すべきなのでしょうか。
❓ よくある質問(FAQ)
Q1: なぜ遺族は訴訟を起こすのですか?
NHKドラマで祖父が史実と真逆の「卑劣な人物」として描かれたため、名誉毀損として提訴します。単なる個人的名誉の問題ではなく、「誤った歴史が広まる」という歴史認識への懸念が大きな理由です。
Q2: ドラマの内容は何が問題だったのですか?
実際の飯村穣中将は若手の自由な議論を後押しした人物でしたが、ドラマでは「日本必敗」の結論を覆すよう圧力をかける存在として描かれました。この史実と真逆の描写が問題視されています。
Q3: NHKはどう対応していますか?
稲葉延雄NHK会長は「ドラマを面白くするために史実と異なる脚色をしたと指摘されてもいたしかたない」と問題を認め、「NHKらしくなかった」と述べました。公共放送のトップが明確に問題を認めるのは極めて異例です。
Q4: フィクションと断っていても名誉毀損になるのですか?
はい、可能性があります。実在の人物が特定可能で、その人物の社会的評価を下げる内容であれば、フィクションと断っていても名誉毀損が成立する可能性があります。過去にもモデル小説で名誉毀損が認められた判例があります。
Q5: 石井裕也監督はどう反論していますか?
監督は「個人の人格や人間性を再現することがテーマではなく、当時の状況とそこに生きる人々の葛藤を伝えることが主眼の作品」とコメントし、表現の自由の立場から創作意図を主張しています。
Q6: 裁判の行方はどうなりますか?
今月中にも東京地裁に提訴される見通しです。争点は「社会的評価の低下」「表現の自由とのバランス」「公共放送としての責任」などになると予想されます。この裁判の結果は、今後の歴史ドラマ制作にも大きな影響を与える可能性があります。
Q7: 視聴者はどう受け止めていますか?
「史実通りでも十分面白かったはず」という意見が多く、「なぜ史実を変える必要があったのか」という疑問が多数上がっています。また、公共放送として「歴史を正しく伝えるべき」という責任を問う声も見られます。
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