📋 この記事でわかること
28億5000万円——。
年収500万円の人が560人集まっても、ようやく届く金額だ。
この途方もない金額が、わずか1年あまりで「追跡不能」になった。2025年1月9日、警視庁と愛知県警は特殊詐欺の被害金を資金洗浄した疑いで、男6人を逮捕した。
彼らが使っていたのは「相対屋」と「ミキシング」という、一般にはほとんど知られていない手口。あなたのお金は、こうして闇に消えていく。
28億円を「洗浄」した男たち——6人逮捕の衝撃
警視庁と愛知県警の合同捜査本部は2025年1月9日、特殊詐欺の被害金約28億5000万円を資金洗浄した疑いで、無職の樋口拓也容疑者(38)と高山孝治容疑者(41)ら男6人を逮捕した。容疑者には日本人と中国籍の男が含まれている。
💰 28億5000万円のスケール感
年収500万円の会社員 560人分 の年収に相当
毎月2億円以上、つまり 毎日650万円以上 を「洗い続けた」計算
▲ TBS NEWS DIGによる事件の解説動画
逮捕容疑は組織犯罪処罰法違反(犯罪収益等隠匿)。2025年1~2月、特殊詐欺で騙し取った金を暗号資産に交換し、口座間を移動させた後、8000万円分を現金化して隠したとされる。この8000万円には、渋谷区の60代女性から騙し取った2800万円も含まれていた。
驚くべきは、この逮捕が「再々逮捕」だということ。樋口容疑者は2025年4月に詐欺容疑で最初に逮捕され、その後も立件が続いている。つまり、すでに複数の事件で追及を受けているにもかかわらず、28億円という途方もない金額がまだ隠されていたのだ。
では、28億円はどうやって「消えた」のか。
そこには「相対屋」という聞き慣れない存在が関わっていた。
お金が「追跡不能」になる仕組み——「相対屋」と「ミキシング」
⚠️ 「相対屋」とは、暗号資産を現金に換える"闇の両替屋"だ。
高山容疑者がまさにこの役割を担っていたとされる。
「相対屋」という言葉を聞いたことがあるだろうか。おそらく、ほとんどの人は初めて耳にするはずだ。相対屋とは、犯罪で得た暗号資産を、取引所を通さずに直接現金化する役割を担う存在。銀行や正規の取引所を使えば足がつくが、相対屋を経由すれば匿名のまま現金を手に入れられる。
マネーロンダリング(資金洗浄)には、国際的に知られた「3つの段階」がある。金融犯罪対策の国際機関であるFATF(金融活動作業部会)が定義するもので、専門家はこれを「配置」「階層化」「統合」と呼ぶ。
📊 マネーロンダリングの3段階
第1段階 「配置」
犯罪で得た現金を金融システムに入れる。特殊詐欺の場合、被害者から騙し取った現金を暗号資産に換えるのがこの段階。
第2段階 「階層化」
資金の出どころを分からなくする。ここで登場するのが「ミキシング」という技術。複数の暗号資産を混ぜ合わせ、誰のお金がどこから来たのか追跡不能にする。
第3段階 「統合」
「洗浄済み」の資金を正規の経済活動に戻す。相対屋が暗号資産を現金化するのがこの段階。
樋口容疑者らはセーシェル諸島にある取引所を経由してこのミキシングを行っていたとされる。
つまり、あなたから騙し取られたお金は、
数時間で「誰のものでもない金」に変わる。
さらに驚くべきは、これがビジネスとして成立していることだ。別の事件で逮捕された相対屋の事例では、手数料として1.5〜3%を受け取っていたとされる。
💵 相対屋の手数料計算
28億円 × 1.5% = 4,200万円以上
犯罪の「専門職」として、これだけの報酬が動いている。
なぜ暗号資産が使われるのか。答えはシンプルで、銀行口座のような「本人確認」が緩く、国境を越えた送金が瞬時にできるからだ。セーシェル諸島のような規制の緩い国を経由すれば、日本の警察が追跡することはほぼ不可能になる。
この巧妙な資金洗浄ネットワークの中心にいたのが、樋口拓也容疑者だ。
「ルフィ」ともつながる男——樋口拓也容疑者の正体
樋口容疑者は、フィリピンから「ルフィ」を名乗って広域強盗事件を指示したグループとも接点があったとみられている。
「ルフィ」——その名前を覚えている人は多いだろう。2023年、フィリピンの入管施設から日本国内の強盗事件を指示していたとして、社会に衝撃を与えた事件だ。警視庁によると、樋口容疑者はこのルフィグループから少なくとも1000万円を受け取っていたとされる。
🔗 つまり樋口容疑者は、特殊詐欺グループだけでなく、
強盗グループの資金も「洗浄」していた可能性がある。
警察関係者が注目するのは、樋口容疑者の「ハブ」としての役割だ。近年、犯罪組織は「匿流(とくりゅう)」と呼ばれる新しい形態に変化している。匿流とは「匿名・流動型犯罪グループ」の略で、SNSなどで緩くつながり、必要な時だけ集まって犯罪を実行する。固定的なヤクザ組織とは異なり、誰が幹部で誰が末端なのか、外部からは見えにくい。
樋口容疑者は、この匿流の「金融インフラ」を担っていたと考えられる。複数の犯罪グループから資金を受け取り、相対屋や海外取引所を使って洗浄し、現金化して戻す。いわば、犯罪者たちの「銀行」だ。
高山容疑者との関係も興味深い。樋口容疑者が管理する口座から高山容疑者の管理口座に暗号資産が渡っていたことから、2人は役割分担をしていたとみられる。樋口容疑者が「元締め」、高山容疑者が「窓口」という構図だ。
6人の容疑者全員が認否を明らかにしていない。しかし、彼らが洗浄した28億円の元をたどれば、180人もの被害者がいる。
180人、25都府県——被害者たちの声なき叫び
被害者は25都府県に広がり、約180人が特殊詐欺で騙し取られた。2023年3〜6月だけでも、その被害総額は約8億円にのぼる。
180人
1年間で「2日に1人」が新たな被害者になった計算だ。
25都府県という数字も見逃せない。日本の半分以上の地域で被害が出ている。東京の事件だと思っていたら、あなたの住む地域にも被害者がいるかもしれない。
具体的な被害者像も明らかになっている。渋谷区の60代女性は、2800万円を騙し取られた。老後のために貯めていたお金だったのか、退職金だったのか——。その詳細は報じられていないが、2800万円という金額は、人生をかけて蓄えた財産が一瞬で消えたことを意味する。
特殊詐欺の被害者の多くは高齢者だ。「オレオレ詐欺」「還付金詐欺」「架空請求詐欺」——手口は巧妙化し、「自分は騙されない」と思っていた人ほど、深く騙される。
そして、被害者から奪われたお金は、相対屋とミキシングを経て「追跡不能」になる。警察が犯人を逮捕しても、お金が戻ってくる保証はどこにもない。
❓ あなたの家族は大丈夫だろうか。
見知らぬ番号からの電話に、すぐ出てしまっていないだろうか。
まとめ
特殊詐欺で騙し取られた28億円は、「相対屋」と「ミキシング」という2つの手口で追跡不能にされていた。暗号資産を使えば、数時間で誰のお金だったのか分からなくなる——これが現代の資金洗浄の実態だ。
6人の逮捕は、氷山の一角に過ぎない。
樋口容疑者のような「資金洗浄の専門家」は、おそらく他にも存在する。そして今この瞬間も、どこかで誰かが騙されているかもしれない。
被害者180人の背後には、180の家族がある。彼らの「声なき叫び」を、私たちは忘れてはならない。
❓ よくある質問
「相対屋」とは何ですか?
相対屋とは、暗号資産を取引所を通さずに直接現金化する役割を担う存在です。犯罪で得た暗号資産を匿名のまま現金に換えることができ、手数料として1.5〜3%程度を受け取るとされています。
「ミキシング」とはどんな手口ですか?
ミキシングとは、複数の暗号資産を混ぜ合わせて、資金の出どころを追跡不能にする技術です。セーシェル諸島など規制の緩い国の取引所を経由することで、警察の追跡を困難にします。
樋口拓也容疑者とルフィグループの関係は?
警視庁によると、樋口容疑者はフィリピンから広域強盗を指示した「ルフィ」グループから少なくとも1000万円を受け取っていたとされています。特殊詐欺だけでなく、強盗グループの資金も洗浄していた可能性があります。
被害者はどれくらいいますか?
25都府県で約180人が特殊詐欺の被害に遭っています。2023年3〜6月だけでも被害総額は約8億円にのぼり、日本の半分以上の地域で被害が確認されています。
なぜ暗号資産が犯罪に使われるのですか?
暗号資産は銀行口座のような厳格な本人確認が不要で、国境を越えた送金が瞬時にできるためです。また、ミキシングなどの技術を使えば資金の追跡が困難になるため、犯罪者に悪用されています。
リアルタイムニュース.com 編集部
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