2025年10月13日、鹿児島県の馬毛島で、作業員が両手の指を複数切断するという深刻な労災事故が発生しました。
この事故が起きたのは、総工費1兆円を超える巨大な自衛隊基地の建設現場。実は、わずか1ヶ月前にも作業船の衝突事故があり、県が国に「安全確保を徹底してほしい」と申し入れたばかりでした。
⚠️ それなのに、また事故。しかも、2025年だけでけがを伴う事故が4件目です。
なぜこんなに事故が続くのか?馬毛島では一体何が起きているのか?詳しく見ていきましょう。

📋 この記事でわかること
📍 馬毛島基地工事で起きた指切断事故の詳細
2025年10月13日の午前9時頃、馬毛島の滑走路工事現場で事故は起きました。
被害に遭ったのは30代の男性作業員。クレーンの後ろについている「ドラム」という、ワイヤーを巻き取る円筒形の装置に巻かれたワイヤーを、3人で巻き直している最中のことでした。
このとき、男性作業員が両手の指をワイヤーに挟まれ、指を複数切断してしまったのです。
事故が起きたのは、仮設ハウスの移設作業が終わった直後。移設作業で使ったクレーンのワイヤーを整理し直している時でした。
男性作業員はすぐに種子島の病院に搬送されました。意識はあるとのことですが、両手の指を複数切断という深刻なけがです。
鹿児島県や九州地方整備局に入った連絡によると、事故後、県は国に対して「工事の安全確保に万全を期すこと」「工事関係者に再度周知徹底すること」を改めて申し入れました。
💡 実は、この事故が起きたのは、県が国に安全対策の強化を申し入れたわずか3週間後のことだったのです。
では、なぜこのような事故が起きてしまったのでしょうか?
⚠️ なぜこの事故は起きたのか?ワイヤー巻き直し作業の危険性
クレーンのワイヤーを巻き直す作業。一見、単純そうに見えますが、実は非常に危険な作業なんです。
クレーンの後ろには「ドラム」と呼ばれる、ワイヤーを巻き取るための円筒形の装置があります。このドラムに、何十メートルもある重いワイヤーを、きれいに巻き取らないといけません。
🔧 「乱巻き」という危険な状態
問題は、ワイヤーが「乱巻き」と呼ばれる状態になってしまうこと。
乱巻きとは、ワイヤーがドラムにぐちゃぐちゃに巻かれた状態のこと。こうなると、ワイヤーに無理な力がかかって、最悪の場合、ワイヤーが切れてしまう危険があります。
だから、作業員はワイヤーを巻き直すんですが、この作業中が危ないんです。
🚫 絶対に守るべき安全ルール
玉掛け作業の安全ガイドラインでは、「クレーンで巻き上げ始めた時、ワイヤーがずれていることに気づいても、絶対に手で直してはいけない」と定められています。
なぜなら、動いているワイヤーと重い荷物やクレーンの部品との間に手を挟むと、指が切断されたり、腕ごと巻き込まれたりする危険があるからです。
今回の事故も、ワイヤーを巻き直している最中に、何らかの理由で作業員の両手がワイヤーとドラムの間に挟まれたと考えられます。
建設業界では、「はさまれ・巻き込まれ」による事故は、死亡事故の主要な原因の一つ。ちょっとした油断が、取り返しのつかない大事故につながるのです。
しかし、この事故だけではありません。馬毛島では、事故が相次いでいるのです。
📊 馬毛島基地工事で相次ぐ事故 - 1ヶ月前の衝突から1年前の死亡事故まで
実は、馬毛島の工事現場では、事故が相次いでいます。
🚢 2025年9月20日:作業船と警戒船が衝突
今回の指切断事故のわずか3週間前、2025年9月20日に大きな事故がありました。
馬毛島の南約2キロの海上で、工事用の作業船「第八幸洋」(1240トン)と、工事の安全を見守る警戒船「新漁丸」(4.6トン)が衝突したのです。
南日本新聞の報道によると、衝突で警戒船の2人が海に投げ出され、1人が頭部や右腕に切り傷を負いました。警戒船は大破し、船尾が沈没。原因は作業船側の前方確認不足でした。
この事故を受けて、県は国に対し「工事関係者への安全確保の周知徹底を」と申し入れていました。その直後に、今回の指切断事故が起きたのです。
💀 2024年10月18日:スリランカ国籍男性が死亡
さらに遡ると、1年前の2024年10月18日には、もっと深刻な事故がありました。
死亡事故の詳細報道によると、スリランカ国籍の男性作業員(43歳)が、油圧ショベル機を運転中に、深さ約4メートル、縦横約13メートルの排水用の穴に、重機ごと転落。病院に搬送されましたが、死亡が確認されました。
この事故の原因調査では、3つの重大な安全管理の不備が指摘されました。
- 作業を指示する指揮者がいなかった
- 穴の周りに設置すべき転落防止の土壁が一部なかった
- 作業内容が作業員に正しく伝わっていなかった
この死亡事故を受けて、国は安全管理の人員を15人から27人に増員し、「図面や文書を使った作業指示の徹底」「作業指揮者の増員」などの再発防止策を講じたはずでした。
🤕 2023年12月:船員が骨折
2023年12月にも、作業船の装置が破損し、40代の船員が胸や右足を骨折する事故が発生しています。
📈 事故は常態化している
⚠️ 深刻な事故の頻度
自衛隊基地建設工事に関するけがを伴う事故:
2024年:6件
2025年:4件目(今回の事故まで)
つまり、2年間で10件もの事故が起きているのです。
死亡事故後に安全管理体制を強化したはずなのに、1年後にまた重大事故。申し入れ直後にまた事故。馬毛島の工事現場では、事故が常態化していると言わざるを得ません。
では、そもそもなぜ馬毛島でこれほど大規模な工事が行われているのでしょうか?
🏗️ 馬毛島基地とは?なぜこれだけ大規模な工事が進められているのか
ここまで読んで、「そもそも馬毛島って何?なんでこんな大規模な工事をしてるの?」と思った人も多いはず。
馬毛島について、分かりやすく説明します。
🗺️ 馬毛島ってどこ?
馬毛島は、鹿児島県西之表市にある島です。種子島の西12キロの場所にあり、面積は8.2平方キロメートル。東京ディズニーランドの約16倍の広さです。
実は、この島、元々は無人島でした。
🎯 なぜ基地を作るの?
日本政府は、馬毛島に自衛隊の基地を建設しています。主な目的は2つ。
1つ目は、アメリカ軍の空母艦載機が着陸訓練をする場所として使うこと。これまでは東京から約1200キロも離れた硫黄島で訓練していましたが、馬毛島なら約400キロの距離に短縮できます。
2つ目は、自衛隊の南西方面での防衛力を強化すること。
防衛省の公式情報によると、滑走路2本、港湾施設、隊員宿舎などを建設し、陸海空の自衛隊が訓練できる拠点にする計画です。
💰 工事の規模がすごい
この基地建設、とにかく規模が巨大なんです。
💵 工事の規模
総工費:1兆円超
作業員:最大6000人
完成予定:2030年3月(当初より3年延長)
時事通信の報道によると、総工費は1兆円を超える見込み。契約ベースでは、すでに8827億円以上が使われています。これは、日本の年間防衛費(約5.4兆円)の約2割に相当する金額です。
作業員の数も尋常ではありません。最大で6000人が働く予定。内訳は、種子島から通う人が約2000人、馬毛島に宿泊する人が約4000人です。
ちなみに、種子島の人口は約3万人。つまり、島の人口の5分の1にあたる人数が、工事に関わっているんです。
🏘️ 島の生活が一変
種子島での影響も深刻です。
工事関係者が大量に流入したことで、家賃が高騰。もともと島に住んでいた人や、移住を希望していた人が、物件を見つけられなくなっています。
ホテルや民宿も工事関係者で埋まり、観光客が泊まれない状況。飲食店などは活況を呈していますが、島全体の生活バランスが大きく崩れているのです。
💡 実は、人口3万人弱の小さな島に、6000人もの工事関係者が流入するというのは、異常事態と言えます。
このような巨大プロジェクトで、今後の安全対策はどうなるのでしょうか?
🔍 今後の安全対策と再発防止への課題
では、今後の安全対策はどうなるのでしょうか?
📝 県の申し入れ
今回の指切断事故を受けて、県は国に対して改めて申し入れを行いました。
内容は以下の通りです。
- 工事の安全確保に万全を期すこと
- 工事関係者に再度、安全対策を周知徹底すること
実は、この申し入れ、9月の衝突事故の時にも行われていました。にもかかわらず、3週間後にまた重大事故。申し入れの実効性に疑問が生じています。
🤔 過去の対策は機能しているのか?
2024年10月の死亡事故後、国は安全管理体制を強化しました。
事故後の対策として、以下が実施されたはずです。
- 安全管理の人員を15人から27人に増員
- 図面や文書を使った明確な作業指示の徹底
- 作業指揮者の増員と巡回の強化
- 作業環境の整備手順を明確化し、確実に実施
❓ しかし、これらの対策を講じたにもかかわらず、1年後の9月に衝突事故、10月に指切断事故が発生しています。
対策は本当に現場で実行されているのか?作業員一人ひとりに安全意識は浸透しているのか?大きな疑問が残ります。
⏰ 3年延長で課題も長期化
工期が2030年3月まで3年延長されたことで、安全管理の課題も長期化します。
最大6000人が働く巨大工事現場で、これから5年以上も工事が続くのです。その間、事故を防ぎ続けられるのか?
単発の申し入れや一時的な対策強化では、事故は防げません。現場レベルでの具体的な安全対策の強化と、その実効性を継続的に検証する仕組みが必要です。
作業員一人ひとりの命を守るために、今こそ抜本的な安全管理体制の見直しが求められています。
📌 まとめ:馬毛島基地工事の事故問題
この記事のポイントをまとめます。
- 2025年10月13日、馬毛島基地工事で作業員が両手の指を複数切断する重大事故が発生
- クレーンのワイヤー巻き直し作業中、ワイヤーとドラムの間に手を挟んだと見られる
- 2025年は4件目、2024年は6件のけがを伴う事故が発生し、事故が常態化
- 1年前の死亡事故後に安全管理を強化したはずが、再び重大事故が発生
- 総工費1兆円超、作業員最大6000人という巨大プロジェクトで、安全管理体制の実効性が問われている
- 工期が2030年まで延長され、安全管理の課題も長期化
県の申し入れ直後にまた事故。対策強化後も事故が続く。馬毛島基地工事の安全管理には、構造的な問題があるのかもしれません。
あなたは、この事故問題についてどう思いますか?
❓ よくある質問
Q. 馬毛島の指切断事故はいつどこで起きましたか?
2025年10月13日午前9時頃、鹿児島県西之表市の馬毛島滑走路工事現場で発生しました。30代男性作業員がクレーン後部のドラムに巻かれたワイヤーを巻き直し中に両手の指を複数切断しました。
Q. ワイヤー巻き直し作業はなぜ危険なのですか?
ワイヤーが乱巻き状態になると切断リスクが高まり、作業中にワイヤーとドラムの間に手を挟むと指切断や腕の巻き込みの危険があります。玉掛け作業の安全ガイドラインでは動いているワイヤーを手で直すことは禁止されています。
Q. 馬毛島で事故は何件起きていますか?
2025年はけがを伴う事故が4件目、2024年は6件発生しています。2024年10月にはスリランカ国籍男性が重機ごと転落し死亡、2025年9月には作業船と警戒船が衝突し1人が負傷する事故がありました。
Q. 馬毛島基地の工事規模はどれくらいですか?
総工費1兆円超の巨大プロジェクトで、作業員は最大6000人(種子島2000人、馬毛島4000人)が働いています。完成予定は2030年3月で、当初より3年延長されました。人口3万人弱の種子島に大きな影響を与えています。
Q. 今後の安全対策はどうなっていますか?
県は国に対し工事の安全確保と周知徹底を申し入れました。2024年の死亡事故後、安全管理人員を15人から27人に増員し、作業指示の徹底や指揮者増員などの対策を講じましたが、その後も事故が続いており実効性が問われています。