⚠️ 2025年10月24日朝、新潟県燕市のダンボール製造工場で、40歳の男性作業員が機械の点検中に頭部を挟まれ、意識不明の重体となる事故が発生しました。
男性はヘルメットを着用していましたが、ヘルメットは破損し、頭部から出血がありました。
この事故は、工場で働く多くの人にとって決して他人事ではありません。
製造業では「はさまれ・巻き込まれ」事故が最も多く、令和5年だけで6,377件も発生しています。
そして、こうした事故の多くは「点検作業中」に発生しています。
一体なぜ、点検という日常的な作業で重大事故が起きてしまうのでしょうか。
📋 この記事でわかること
🏭 新潟・燕市のダンボール工場で重大事故が発生
事故が起きたのは、新潟県燕市にあるセッツカートン新潟工場。
2025年10月24日午前8時前、40歳の男性作業員がダンボール箱の製造機械の点検作業をしていたところ、機械の可動フレーム部分に頭を挟まれました。
男性は三条市内の病院に救急搬送されましたが、意識不明の重体となっています。
警察によると、男性は当時ヘルメットを装着していました。
しかし、機械に挟まれた衝撃でヘルメットは破損し、頭部から出血があったということです。
「ヘルメットをしていたのに重体？」と驚く人も多いかもしれません。
実は、この事故には工場での点検作業に潜む、いくつかの重大な危険が関係しているのです。
🤔 なぜ点検作業で事故が起きるのか？3つの原因
点検作業は工場では日常的に行われる作業です。
しかし、製造業の労災事故に関する調査によると、この「日常的な作業」だからこそ、重大な事故が起きやすいことが分かっています。
その原因は大きく3つあります。
⚡ 原因1：「慣れ」による危険軽視
元労働基準監督官の解説によると、点検作業は「時間をそこまで必要とせず、作業の難易度も高くない」ため、機械を停止しなくても大丈夫だろうという意識が働きやすいとされています。
💡 実は、事故を起こすのは経験の浅い新人よりも、作業に「慣れた」ベテランの方が多いことがヒューマンエラーの研究で明らかになっています。
「今まで大丈夫だったから、今回も大丈夫だろう」
この思い込みが、確認を省いてしまう原因になるのです。
⚡ 原因2：手順の省略・近道行動
「面倒だから」「急いでいるから」という理由で、本来すべき手順を省略してしまうケースも多くあります。
機械の清掃時に電源を切らない、保護具の着用を省略するなど、効率を優先するプレッシャーが手順の不遵守につながっているのです。
ある工場経験者のコメントでは「機械を止めると手間がかかる」「生産性を落としたくない」という現場の空気があることが指摘されています。
⚡ 原因3：ヒューマンエラー「ミステイク」
もう一つの原因が、目的と結果の間にずれが生じる「ミステイク」と呼ばれるヒューマンエラーです。
「機械が動いているので接触しないように点検しよう」と思って作業していたが、つい機械を触れてしまい、巻き込まれてしまう。
こうしたミスは誰にでも起こりうるものです。
だからこそ、「人はエラーを犯すものだ」という前提で、機械を停止し、停止したことを確認した上で作業を行う手順が必要になります。
🪖 ヘルメットをしていても重体になる理由
「ヘルメットをしていたのに、なぜ重体になったのか？」
これは多くの人が疑問に思うポイントです。
実は、ヘルメットには「できること」と「できないこと」があります。
🛡️ ヘルメットは「飛来・落下物」から守るもの
船舶電装の安全資料によると、ヘルメットは5kgの鉄半球を高さ1mから落下させた場合、頭部にかかる衝撃荷重40～50kNを4.9kN以下にまで軽減します。
これは、衝撃を約10分の1に減らす性能です。
過去の研究により、人間の致死域は約20kN以上とされているので、ヘルメットは確かに命を守る効果があります。
しかし、これは主に「上から落ちてくる物」から頭を守るための性能なのです。
⚠️ 機械の挟み込み力はヘルメットの保護能力を超える
今回の事故のように、機械の可動部分に頭が挟まれる場合、力のかかり方が全く違います。
機械の挟み込み力は、ヘルメットが想定している「衝撃吸収」の範囲を超える可能性があるのです。
実際、報道によるとヘルメットは破損し、頭部から出血がありました。
これは、機械の力がヘルメットの保護能力を上回ったことを示しています。
ヘルメットは重要な保護具ですが、「ヘルメットをしているから安全」ではありません。機械に挟まれないための根本的な対策が何より大切です。
📊 工場での「はさまれ・巻き込まれ」事故の実態
では、こうした事故はどれくらい起きているのでしょうか。
実は、想像以上に多くの事故が発生しています。
📈 年間6,377件の「はさまれ・巻き込まれ」事故
製造業の労働災害統計によると、令和5年（2023年）に製造業で発生した労災事故は27,194人。
これは全業種の約20％を占めています。
そして、その中で最も多いのが
「はさまれ・巻き込まれ」事故で、
6,377件も発生しています。
つまり、製造業の労災事故の約4分の1が、この種類の事故なのです。
別の調査でも、製造業での「はさまれ・巻き込まれ」事故は全体の24％を占め、6,416件に上ることが報告されており、この種類の事故の深刻さが裏付けられています。
💀 死亡事故も多い
さらに深刻なのは、「はさまれ・巻き込まれ」事故は死亡事故につながりやすいということです。
令和4年のデータでは、製造業での死亡災害140人のうち、56人が「はさまれ・巻き込まれ」が原因でした。
これは、製造業での死亡事故の約40％にあたります。
📉 労働災害は4年連続で増加傾向
さらに気になるデータがあります。
休業4日以上の労働災害は、2021年から4年連続で増加しており、2024年は過去20年間で最悪となりました。
人手不足や高齢化など、様々な要因が指摘されていますが、安全対策の徹底が今まで以上に重要になっているのです。
🔒 点検作業の正しい安全手順「ロックアウト・タグアウト」
「では、どうすれば事故を防げるのか？」
実は、法律で定められた安全手順があります。
それが「ロックアウト・タグアウト（LOTO）」という方法です。
⚖️ 労働安全衛生規則で義務付けられている
労働安全衛生規則第107条では、以下のように定められています。
「機械の掃除、給油、検査、修理又は調整の作業を行う場合において、労働者に危険を及ぼすおそれのあるときは、機械の運転を停止しなければならない」
「機械の運転を停止したときは、当該機械の起動装置に表示板を取り付ける等、作業に従事する労働者以外の者が当該機械を運転することを防止するための措置を講じなければならない」
つまり、点検時に機械を止めることは法律で義務付けられているのです。
🔐 ロックアウト・タグアウトとは何か
ロックアウト・タグアウトの具体的な方法は、以下の3つのステップで行われます。
🔹 ステップ1：ロックアウト（施錠）
機械の電源、バルブ、ブレーカーなどのエネルギー源を遮断し、専用の南京錠で物理的にロックします。これにより、誰も機械を再起動できなくなります。
🔹 ステップ2：タグアウト（表示）
ロックした箇所に「点検中」「運転禁止」などの警告タグを取り付けます。タグには、作業者名、作業内容、作業時間などを記入します。
🔹 ステップ3：残留エネルギーの確認
電源を切っても、機械内に残っている圧力やエネルギーがないか確認します。
🔑 なぜ「南京錠」が重要なのか
「表示板だけではダメなのか？」と思う人もいるかもしれません。
実は、表示板だけでは見落としたり、中身を読まなかったりすることがあります。
🔒 しかし、南京錠で物理的にロックすれば、確実に電源を入れることができません。これが、命を守る最後の砦になるのです。
💼 工場で働くときに知っておくべき3つのこと
最後に、工場でのバイトや就職を考えている人、すでに工場で働いている人に向けて、自分の命を守るために知っておくべきことをまとめます。
1️⃣ 「慣れ」を自覚し、基本に立ち返る
作業に慣れてきたときこそ、一番危険です。「今まで大丈夫だったから」という思い込みが、重大事故につながります。どんなに慣れた作業でも、毎回基本に立ち返り、安全手順を確認することが大切です。
2️⃣ 「面倒」でも安全手順を省略しない
「急いでいる」「手間がかかる」という理由で、安全手順を省略してはいけません。
工場の安全対策に関する調査によると、手順の省略は労働災害の主要な原因の一つです。生産性よりも、自分の命の方が大切です。
3️⃣ 分からないことは必ず聞く、一人で判断しない
初めての作業や、不安な点がある場合は、必ず先輩や上司に確認しましょう。
「こんなこと聞いたら恥ずかしい」と思う必要はありません。分からないまま作業を進めることの方が、はるかに危険です。
また、もし職場で「機械を止めずに点検しろ」と指示された場合、それは法律違反です。自分の命を守るために、適切な安全手順を求める権利があります。
📝 まとめ：点検作業の事故は防げる
今回の新潟での事故は、「点検作業」という日常的な業務の中で起きました。
こうした事故の多くは、以下の原因で発生しています：
- 「慣れ」による手順の省略や「今まで大丈夫だったから」という思い込み
- ヘルメットをしていても、機械の挟み込み力は保護能力を超える可能性がある
- 製造業では年間6,377件もの「はさまれ・巻き込まれ」事故が発生している
- 労働安全衛生規則第107条では、点検時の機械停止とロックアウト・タグアウトが義務付けられている
- 工場で働く際は、慣れを自覚し、安全手順を省略せず、分からないことは必ず聞くことが大切
これらは、過去の多くの痛ましい事故から学んだ、命を守るためのルールです。
工場で働く際には、どんなに慣れた作業でも安全手順を省略せず、「自分の命は自分で守る」という意識を持つことが何より大切です。
事故に遭われた男性の一日も早い回復を心よりお祈りします。
❓ よくある質問（FAQ）
Q1. なぜ点検作業で事故が起きやすいのですか？
点検作業は日常的で難易度が高くないため、「機械を停止しなくても大丈夫」という意識が働きやすく、慣れたベテランほど手順を省略しがちです。この「慣れ」が重大事故につながる主な原因となっています。
Q2. ヘルメットをしていても重体になったのはなぜですか？
ヘルメットは主に「上から落ちてくる物」から頭を守るために設計されています。機械の挟み込み力のような圧縮する力には限界があり、今回の事故ではその保護能力を超える力がかかったと考えられます。
Q3. 工場での「はさまれ・巻き込まれ」事故はどれくらい発生していますか？
令和5年（2023年）のデータでは、製造業で6,377件の「はさまれ・巻き込まれ」事故が発生しており、これは製造業の労災事故の約4分の1を占めています。死亡事故も多く、製造業の死亡災害の約40%がこの種類の事故です。
Q4. ロックアウト・タグアウトとは何ですか？
点検作業時に機械の電源を遮断し、南京錠で物理的にロックして、誰も機械を再起動できないようにする安全手順です。労働安全衛生規則第107条で義務付けられており、命を守る最後の砦となります。
Q5. 工場で働くときに最も大切なことは何ですか？
「慣れ」を自覚して基本に立ち返ること、面倒でも安全手順を省略しないこと、分からないことは必ず聞いて一人で判断しないことの3つが重要です。どんなに慣れた作業でも、「自分の命は自分で守る」という意識を持つことが何より大切です。
📚 参考文献・関連情報
- 📌 製造業の労災事故について解説（神奈川県福祉共済協同組合）
- 📌 ロックアウト・タグアウトとは？労働安全衛生法107条（安全の王道）
- 📌 製造業における労働災害の統計と対策（tebiki）
- 📌 ヒューマンエラーの原因～人が間違える12の理由
- 📌 ロックアウトシステムについて（ミドリ安全）
- 📌 保護帽（ヘルメット）の役割と使用方法（船舶電装）
- 📌 工場の安全対策とは？対策のポイントと事例（リコー）
