2025年10月30日朝、秋田県三種町のJA秋田やまもとのカントリーエレベーターで、作業員の男性(56)が約30メートル下の地面に転落し、死亡する事故が発生しました。
「カントリーエレベーター」という言葉を初めて聞いた人も多いのではないでしょうか。
💡 実はこれ、私たちが毎日食べているお米を保管する巨大な施設なんです。
でも、なぜこんな高い場所で作業していたのか。
なぜ安全装備をつけていなかったのか。
この記事では、事故の詳細から、カントリーエレベーターとは何か、そして高所作業の危険性まで、詳しく解説します。
📋 この記事でわかること

🏢 カントリーエレベーターとは?お米を守る10階建ての巨大倉庫
カントリーエレベーターとは、収穫したお米を乾燥させて保管する大型の施設です。
農林水産省の説明によると、大きな乾燥機と貯蔵サイロ(貯蔵タワー)がエレベーターでつながった、農家が共同で利用する倉庫なんです。
📏 どのくらい大きいの?
実は、カントリーエレベーターのサイロ(円柱状の貯蔵タワー)は、高さ約28~30メートルもあります。
これは10階建てのビルと同じくらいの高さ。
田園風景の中に突然そびえ立つ巨大な建物なので、見たことがある人も多いかもしれません。
🌾 何をする場所なの?
カントリーエレベーターでは、以下のような作業が行われています。
📦 カントリーエレベーターの役割
① 農家が収穫した籾(もみ:お米の殻がついた状態)を運び込む
② 重さを計測する
③ 乾燥機で水分を約15%まで乾燥させる
④ 温度管理されたサイロに保管する
⑤ 出荷する時に籾殻を取って玄米にする
つまり、収穫したお米を最適な状態で保管し、必要な時に出荷できるようにする施設なんです。
🌍 実は、名前の由来は「田舎のエレベーター」
カントリーエレベーター(Country Elevator)という名前は、アメリカが発祥です。
巨大なサイロができたことで、エレベーターを使って籾を上まで運ぶようになったため、「田舎(Country)にあるエレベーター」という意味で名付けられました。
アメリカの大穀倉地帯では、この巨大な建物が立ち並ぶ光景が「プレーリーの摩天楼」と呼ばれるほど特徴的な景観になっています。
日本では戦後に普及し、今では全国の米どころに設置されています。
あなたが今日食べたお米も、こんな巨大な施設で保管されていたかもしれません。
でも、この便利な施設で、なぜ悲劇が起きてしまったのでしょうか。
⚠️ 三種町で何が起きた?30m転落の衝撃
📰 事故の詳細
2025年10月30日午前8時15分頃、秋田県三種町鹿渡にあるJA秋田やまもとのカントリーエレベーターで事故は起きました。
作業していたのは、井川町に住む小野孝一さん(56歳)。
籾すりの準備作業中、籾を運ぶコンベアの詰まりを解消する作業をしていたところ、約30メートル下の地面まで転落してしまいました。
小野さんは意識のない状態で能代市内の病院に緊急搬送されましたが、事故からおよそ1時間半後に死亡が確認されました。
📐 30メートルってどのくらい危険なの?
「30メートル」と聞いても、ピンとこないかもしれません。
🏢 30メートル = マンションの10階から落ちるのと同じ高さ
高所転落に関する科学的研究によると、30メートルからの転落は生存率が極めて低い高さです。
2023年にアメリカで13歳の少年が約30メートル転落して奇跡的に生還した例がありますが、9箇所の脊椎骨折、脾臓破裂、肺気胸、手の骨折、脳震盪など重傷を負いました。
普通であれば命を失ってしまう高さなんです。
🔧 なぜこんな高い場所で作業していたのか
カントリーエレベーターでは、籾をサイロの上まで運ぶためのコンベア(ベルトコンベアのような搬送装置)が高い位置に設置されています。
今回、そのコンベアに籾が詰まったため、小野さんは詰まりを解消する作業をしていたとみられています。
コンベアの詰まりは、作業を止めてしまう緊急のトラブル。
すぐに直さなければならない状況だったのかもしれません。
でも、ここで大きな疑問が浮かびます。なぜ、安全装備をつけていなかったのでしょうか。
🦺 なぜハーネスをつけていなかった?2m以上の高所作業は義務化されているのに
🔒 ハーネスって何?
ハーネスとは、高所作業をする際に身につける安全装備のこと。
正式には「フルハーネス型墜落制止用器具」と呼ばれます。
肩、腰、太ももなど複数の箇所でベルトが体を支える構造になっていて、万が一転落しても命綱で体を支えることができます。
⚖️ 法律で義務化されています
厚生労働省の資料によると、2022年1月から、2メートル以上の高所作業では原則としてフルハーネスの着用が義務化されています。
❓ なぜ義務化されたの?
実は、以前は「胴ベルト型」という、腰だけで体を支えるタイプの安全帯が使われていました。
でも、胴ベルト型は転落した時に腰だけで全体重を支えるため、内臓を損傷する危険性が高かったんです。
そこで、より安全なフルハーネス型に移行することが法律で義務付けられました。
🤔 今回はなぜ未着用だったのか
報道によると、小野さんはヘルメットやハーネスなどをつけていなかったとのこと。
なぜ義務化されているはずの安全装備を着用していなかったのでしょうか。
警察が原因を調査していますが、考えられる理由としては:
⏱️ 短時間作業と判断した可能性
「ちょっとだけ」「すぐ終わる」という油断があったかもしれません。実際、現場では「短時間だから大丈夫」と安全装備を省略してしまうケースがあります。
🚨 緊急対応で装着する余裕がなかった可能性
コンベアの詰まりは作業を止めてしまう緊急トラブル。急いで対応しようとして、安全装備を着ける時間がなかったのかもしれません。
😔 作業の危険性認識が不足していた可能性
普段から同じ作業をしていると、危険性への感覚が薄れてしまうことがあります。「今まで大丈夫だったから」という過信が事故につながることも。
でも、「ちょっとだけ」「すぐ終わる」そんな油断が、命取りになることがあります。
では、そもそもカントリーエレベーターはなぜこんなに危険なのでしょうか。
⚡ カントリーエレベーターの危険性 - 高所作業と狭い空間のリスク
🏗️ カントリーエレベーター特有の危険性
カントリーエレベーターには、いくつかの構造的な危険性があります。
📏 サイロの高さ
前述のとおり、約30メートルという10階建てビル相当の高さ。転落すれば致命的です。
🚶 狭い作業通路
サイロやコンベア周辺の通路は狭く、足場が不安定な場所も多くあります。
⚠️ 作業床の不足
メンテナンスや点検のために高所に登る必要があるものの、十分な作業床(足場)が確保できない箇所が多いのが実情です。
📊 高所作業の統計データ
高所作業の労働災害データによると、日本では毎年200人以上が高所作業中の墜落・転落で命を落としています。
🚗 これは交通事故の死者数よりも多い数字です
また、休業4日以上の負傷者を含めると、年間2万人以上が高所作業で事故に遭っています。
建設業に限ると、死亡事故の37%が墜落・転落によるものです。
労働安全衛生法では、2メートル以上の高所作業には安全措置が義務付けられているのも、これだけ危険だからなんです。
🔧 コンベア詰まり解消作業の危険性
今回の事故のように、コンベアの詰まりを解消する作業には特有の危険があります。
🤸 高所での不安定な姿勢
詰まっている箇所を確認・修理するために、身を乗り出したり無理な姿勢をとることがあります。
⏰ 焦りによる判断ミス
コンベアが止まると作業全体が停止してしまうため、早く直そうと焦って安全確認がおろそかになりがちです。
💭 緊急対応の心理
「すぐ直さなきゃ」という気持ちが、「ハーネスをつける時間がもったいない」という判断につながることも。
でも、労働安全衛生規則では、機械の掃除や修理を行う場合は原則として機械の運転を停止しなければならないと定められています。
緊急対応でも、安全手順を守ることが何より大切なんです。
高所作業の事故は、一瞬の油断や判断ミスが命を奪います。
では、こうした事故を防ぐためには、どうすればいいのでしょうか。
✅ 同じような事故を防ぐには?今後の安全対策
🛡️ 基本的な安全対策
🦺 必ずフルハーネスを着用する
2メートル以上の高所作業では、どんなに短時間でもフルハーネスの着用が義務です。
「ちょっとだけ」という油断が命取りになります。
✔️ 作業前の安全確認を徹底する
作業開始前に、装備の点検、足場の確認、作業手順の確認を必ず行いましょう。
👥 2人以上で作業する
一人での作業は避け、相互に安全確認できる体制を作ることが重要です。万が一事故が起きても、すぐに助けを呼べます。
🚨 緊急時こそ落ち着いて安全装備を確認
コンベアの詰まりなど緊急のトラブルが発生しても、焦って安全装備を省略しないこと。「急がば回れ」です。
⚙️ コンベア作業の具体的対策
🛑 機械を停止してから作業する
労働安全衛生規則では、機械の掃除や修理を行う場合は原則として機械の運転を停止することが義務付けられています。動いている機械に手を出すのは非常に危険です。
🔴 非常停止装置の使い方を熟知する
コンベアには非常停止装置の設置が義務付けられています。いざという時に使えるよう、日頃から使い方を確認しておきましょう。
🔧 詰まり予防のための定期メンテナンス
そもそもコンベアが詰まらないよう、定期的な点検とメンテナンスを実施することが予防につながります。
🏢 組織としての対策
📚 定期的な安全教育の実施
フルハーネスの正しい使い方、高所作業の危険性について、定期的に教育を行うことが必要です。
💡 ヒヤリハット事例の共有
「ヒヤッとした」「危なかった」という事例を組織内で共有し、同じミスを防ぎましょう。
📝 作業手順書の整備と遵守
安全な作業手順を明文化し、全員が守る文化を作ることが大切です。
⚠️ 「短時間作業でも安全装備は必須」という意識徹底
「ちょっとだけだから」という考えを組織全体でなくしていく必要があります。
建設業における高所作業事故の詳細については、こちらの記事で詳しく解説しています。
📌 まとめ:「ちょっとだけ」が命取り
2025年10月30日、秋田県三種町のカントリーエレベーターで発生した転落事故。
56歳の男性が約30メートル下に転落し、命を落としました。
📍 この事故から学ぶべきこと
✓ どんなに短い作業でも、安全装備は必須
「ちょっとだけ」「すぐ終わる」という油断が、取り返しのつかない事故につながります。
✓ 2m以上の高所作業ではフルハーネスは法律で義務化されている
義務化されているということは、それだけ危険だということ。必ず守りましょう。
✓ 緊急時こそ、落ち着いて安全確認を
コンベアの詰まりなど、トラブル対応の際こそ、安全手順を守ることが大切です。
✓ 高所作業の事故は年間200人以上の命を奪っている
これは交通事故よりも多い数字。高所作業の危険性を改めて認識する必要があります。
✓ カントリーエレベーターは10階建てビル相当の高さ
30メートルからの転落は、生存率が極めて低い致命的な高さです。
高所作業の事故は、一人ひとりの安全意識と、組織としての徹底した安全管理で防ぐことができます。
高所からの転落事故の生存率と安全対策の詳細は、こちらの記事をご覧ください。
小野孝一さんのご冥福をお祈りするとともに、同じような事故が二度と起きないことを願います。
❓ よくある質問(FAQ)
Q1. カントリーエレベーターとは何ですか?
カントリーエレベーターは、収穫したお米を乾燥・貯蔵する大型施設です。高さ約28~30メートル(10階建てビル相当)のサイロを持ち、農家が共同で利用します。乾燥、貯蔵、籾すり、出荷を一貫して行える施設です。
Q2. 30メートルからの転落はどのくらい危険ですか?
30メートルは10階建てビルと同じ高さで、生存率は極めて低い致命的な高さです。過去には奇跡的に生還した例もありますが、多数の骨折や臓器損傷など重傷を負っており、通常であれば命を失う高さです。
Q3. フルハーネスの着用は義務ですか?
はい、2022年1月から2メートル以上の高所作業では原則としてフルハーネス型墜落制止用器具の着用が法律で義務化されています。胴ベルト型は内臓損傷のリスクが高いため、より安全なフルハーネス型への移行が義務付けられました。
Q4. なぜハーネスをつけていなかったのですか?
警察が調査中ですが、短時間作業と判断した、緊急対応で装着する余裕がなかった、危険性認識が不足していたなどの可能性が考えられます。「ちょっとだけ」という油断が事故につながった可能性があります。
Q5. 高所作業の事故はどのくらい発生していますか?
日本では毎年200人以上が高所作業中の墜落・転落で死亡しており、これは交通事故の死者数よりも多い数字です。休業4日以上の負傷者を含めると年間2万人以上が高所作業で事故に遭っています。
Q6. 同じような事故を防ぐにはどうすればいいですか?
必ずフルハーネスを着用する、作業前の安全確認を徹底する、2人以上で作業する、緊急時も安全手順を守る、定期的な安全教育を実施する、などが重要です。「短時間だから」という油断をなくすことが最も大切です。
📚 参考文献